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「パンドラ様?」
普段着の青年は、三巨頭の一人であるラダマンティスだった。 彼は何も言わない少女の対応に、逆に自分の行動を冷静に思い直してしまう。 (……俺は何をやっているんだ! パンドラ様に抱きつくなど……) しかも、訳あって冥衣を装着していないので、彼女の柔らかな身体と暖かい体温が自分の中に伝わってくる。 身体を離さなくてはならないのは判っているが、心の何処かで手放すのが惜しいと思っている自分がいる。 時間が経てば経つほど、パンドラとの関係が悪化する事が予想されたというのに……。 「お前も暖かいのだな」 ようやくパンドラが一言だけ喋った。 ラダマンティスは彼女が怒るのを覚悟で、身体を離してその顔を見る。 「パンドラ様。申し訳ありません」 彼は素早く彼女から離れると、片膝を床について礼をする。 怒りの言葉が次に発せられると覚悟していたのだが、パンドラはラダマンティスを見ているだけだった。 あまりにも彼女が喋らないので、ラダマンティスは彼女が忘却の水を飲んでいるのではないかと不安になる。 今、自分がこのような服装なのも、それを警戒したからである。 記憶が欠如した状態でパンドラが自分たちを見たら、恐怖で逃げ回るかもしれない。 自分たち冥闘士が触れる事の出来ない短剣で、自害される可能性も否定出来ない。 だが、パンドラは短剣に構わずに自分を見ている。 「パンドラ様?」 彼は再び彼女の名を呼ぶ。 するとパンドラは、ぎこちなく微笑んだ。 ラダマンティスはその優しい笑みに目が離せない。 「無事、復活出来たようだな」 「はい。パンドラ様のお陰です」 「また、お前を闘士にしてしまったな」 「パンドラ様の為に闘えるこの身を嬉しく思います」 ラダマンティスの言葉が終わるか終わらないかという時に、パンドラがそのまま再びベットに倒れた。 「どうされましたか、パンドラ様!」 ラダマンティスは驚いて彼女を抱き起こす。 彼女は薄く目を開けた。 「少し気分が悪い。休めば治ると思うから、心配するな……」 そうは言っても、彼女の身体が先程よりも固く感じる。 まるで無機質なもののようである。 (何が起こっているんだ!) ラダマンティスは彼女を急いで横たわらせると、部下を呼ぶべく部屋を出た。 (心配するなと言うのに……) パンドラは荒い呼吸を繰り返しながら、黒い短剣を手元に引き寄せた。 (ハーデス。心配しなくて良いからな……) 彼女は短剣を何とかホルダーに納めると、瞼を閉じた。 (あぁ、そう言えばあの幼い子の目の色は、ラダマンティスと同じ色だったな) パンドラは奇妙な偶然に、何か嬉しさを感じた。 |