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何処からともなく聞こえる美しいメロディ。 パンドラは一面に広がる花畑を見た時、直感的にここはエリュシオンだと思った。 しかし、この美しい風景の中にはもう一人、とても幼い女の子がいた。 彼女は花畑でぐっすりと眠っている。 「あれは……」 パンドラはその少女を見た事があった。 昔の自分。弟が生まれる前の自分に、少女は似ていた。 「風邪をひくぞ」 パンドラは彼女を起こそうとしたが、起きる気配がない。 コロリと寝返りをうって、パンドラに背を向けた。 「ここはいったい何処なのだ?」 眠っている少女をそのままに出来ず、パンドラはその場に座ると、その子の頭を優しく自分の膝に乗せる。 「ここはエリュシオンではないのか?」 辺りを見回すと、一面の花畑の為、そうであるとも違うとも言えない。 なんとなく眠っている少女の髪を優しく撫でる。 その時、少女の目がゆっくりと開いた。 そしてパンドラは、その少女の目の色に驚く。 自分とは違っていたのである。 |
気がつくと彼女は見覚えのある部屋に一人で寝かされていた。 他には誰もいない。 パンドラは何故自分がここにいるのか考える。 (女神の試練を終えた。帰り路に黒い靄が発生して……) そして彼女は優しい審判役の笑顔を思い出す。 「ユリティース!」 勢いよく起き上がる。 腰には黒い短剣が装備されたままだった。 (私たちを助ける為に、ユリティースが……) 彼女の最期の姿は、今でもはっきりと思い出される。 真っ赤に染まった鎧。蒼白となった彼女の肌。 そして、そんな彼女にまとわりつく黒い靄。 パンドラは両手で自分の顔を覆う。 「何故だ……。何故、ユリティースがあのような目に遭わねばならない……」 彼女は短剣をホルダーから取り出すと、自分の目の前に出した。 「ハーデス……。教えてくれ……。 私は人の血を吸わねば、生きてゆけぬのか?」 その時ドアが開き、一人の青年が目にも止まらぬ速さで彼女の腕を掴む。 そして短剣を落とさせると、パンドラに抱きついた。 「パンドラ様。お命を絶つと言うのなら、俺ごと刺して下さい」 その声に彼女は、茫然としてしまう。 |