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潜在 1

何処からともなく聞こえる美しいメロディ。
パンドラは一面に広がる花畑を見た時、直感的にここはエリュシオンだと思った。
しかし、この美しい風景の中にはもう一人、とても幼い女の子がいた。
彼女は花畑でぐっすりと眠っている。
「あれは……」
パンドラはその少女を見た事があった。
昔の自分。弟が生まれる前の自分に、少女は似ていた。
「風邪をひくぞ」
パンドラは彼女を起こそうとしたが、起きる気配がない。
コロリと寝返りをうって、パンドラに背を向けた。
「ここはいったい何処なのだ?」
眠っている少女をそのままに出来ず、パンドラはその場に座ると、その子の頭を優しく自分の膝に乗せる。
「ここはエリュシオンではないのか?」
辺りを見回すと、一面の花畑の為、そうであるとも違うとも言えない。
なんとなく眠っている少女の髪を優しく撫でる。
その時、少女の目がゆっくりと開いた。
そしてパンドラは、その少女の目の色に驚く。
自分とは違っていたのである。

気がつくと彼女は見覚えのある部屋に一人で寝かされていた。
他には誰もいない。
パンドラは何故自分がここにいるのか考える。
(女神の試練を終えた。帰り路に黒い靄が発生して……)
そして彼女は優しい審判役の笑顔を思い出す。
「ユリティース!」
勢いよく起き上がる。
腰には黒い短剣が装備されたままだった。
(私たちを助ける為に、ユリティースが……)
彼女の最期の姿は、今でもはっきりと思い出される。
真っ赤に染まった鎧。蒼白となった彼女の肌。
そして、そんな彼女にまとわりつく黒い靄。
パンドラは両手で自分の顔を覆う。
「何故だ……。何故、ユリティースがあのような目に遭わねばならない……」
彼女は短剣をホルダーから取り出すと、自分の目の前に出した。
「ハーデス……。教えてくれ……。
私は人の血を吸わねば、生きてゆけぬのか?」
その時ドアが開き、一人の青年が目にも止まらぬ速さで彼女の腕を掴む。
そして短剣を落とさせると、パンドラに抱きついた。
「パンドラ様。お命を絶つと言うのなら、俺ごと刺して下さい」
その声に彼女は、茫然としてしまう。