頬に冷たい風を感じた時、春麗は自分が他に誰もいない部屋で立ちつくしていた事に気がついた。 布団は今まで人が眠っていた跡はあったが、本人が居ない。
「精霊さん!」 彼女は慌てて部屋を見回したが、いるべき筈の女性の姿はなく、辺りは静まりかえっている。 「探さなきゃ!」 春麗は慌てて貴鬼を呼びに部屋へ戻った。
血相を変えた春麗に起こされた貴鬼も、慌てて部屋の様子を見る。 その騒ぎを聞きつけて、エスメラルダも起きてきた。 「貴鬼ちゃん。私、ここら辺を探してみるから、エスメラルダさんを宜しくね!」
「オイラも行くよ」 しかし、春麗は首を横に振る。 「すれ違いに精霊さんが戻ってきた時に、エスメラルダさん一人じゃ大変よ。 辺りの様子を見るだけだから、直ぐに戻るわ」
そう言って春麗は上着を羽織ると、外へと出て行った。 「春麗!」 貴鬼はどうしようかと迷ったが、確かにエスメラルダを留守番役にさせる訳にはいかない。
「あの……、外で待ちましょう」 エスメラルダの提案に、貴鬼は頷いた。 何かあった時に、外ならテレポートという手段が使えるからである。
外は夜明けが始まっており、ほのかに辺りの様子が判る。 春麗は森の中を、探し回っていた。 (どうしよう……。エウリュディケーさんから預かっていたのに)
今まで眠っていたからといって、油断した自分が悪い。 彼女は自分が役にたたない人間に思えてしまった。 「精霊さん!」 呼びかけてみるが、彼女の本当の名前は知らないのだから、相手は返事をしないだろう。
辺りの様子を見る為に立ち止まった時、春麗の耳に正体不明の音が聞こえてきた。 「何かしら?」 風の音みたいだと思った時、辺りの木々が大きく揺れ、鳥たちがけたたましく啼いた。
「えっ!」 黒い煙のようなものが春麗の周囲に漂いはじめる。 そして森の中から誰かがこちらにやって来たのである。 探している女性ではと彼女は一瞬思ったが、それは聖衣のようなものをまとった青年だった。
春麗は動く事が出来ない。 聖域のからの使者かと思ったが、何か禍々しい雰囲気を感じたのである。 「お前は何者だ?」 青年は春麗の前に立つ。
「あ……あの、ここら辺で女性を見かけませんでしたか?」 そう言いながらも彼女は後ずさりをする。 だが春麗は背後の木に退路を阻まれてしまった。
「知らんな」 そう言いながら青年は右手を春麗の前に出す。 その手は彼女の首を掴もうとしていた。 |