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黒の聖域 3

そして穴に入り込んだアイアコスの方も、何やら非常に楽しそうだった。
何処かに辿り着いたという訳ではなく、彼は混沌の色の世界に入り込んでいるのだが別に慌ててはいない。
(さて、ここに何があるんだ?)
今となっては冥衣がここに来たいと示していたのかも怪しいが、引力を感じていたのだから、これは自分と関わる宿命だったのだと彼は考える。
その時、彼の視野の端で何かが動いた。
(何かいるのか?)
全てが世界に溶け込んでいるような状態だというのに、彼はそれを見つけたのである。
近付いてみるとそれは三匹の蛇が絡まった杖だった。
杖は小刻みに動いている。
(何だこれは?)
アイアコスが拾おうと手を伸ばした瞬間、得体のしれない力の爆発が起こった。
彫刻と思っていた蛇が発光し彼から逃れるかのように三方に飛んだのである。
物凄いエネルギーの逆流を感じて、アイアコスは呼吸する事が出来ない。
(デスクィーン島での黒い妖気の比じゃない!)
少なくとも向こうは自分たちに対して恐れに近い感情を示したが、今回の方は攻撃と逃亡という印象だった。
蛇たちはアイアコスに掴まる前に反撃したといった様子なのである。
そのうちの一匹が、あるモノの身体の中に入り込んだのを見た時、アイアコスは自分の目を疑った。
「ユリティース!」
真っ赤な鎧をまとって横たわっている女性は一瞬にしてその場から消え、動こうとした彼は強制退去されてしまう。
ただ、上下感の無い空間ゆえに、自分は落ちているのか弾き飛ばされているのかが判らない。
(まさか、ガルーダの冥衣はあの蛇に反応していたのか?)
伝説の怪鳥ガルーダはその宿命として、多くの蛇を喰らう。
(神々の事情は不可解だ)
彼は落ち着きを取り戻すと、冥衣の翼を広げた。
「仕方ない。風に流されるか……」
アイアコスは自分を取り巻く力の赴くまま、動く事にした。
目的がこの空間からの脱出なのだから、無駄な動きをして体力が減るのは避けたい。
出口が存在するのかも怪しい話なのだが。