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黒の聖域 2

「大変です!」
「どうした」
「花畑の穴を調査中にライミが呑み込まれました」
どうやらワームを使って、地中の調査をしようとしたのが裏目に出たらしい。
何処かで何かが軋む音が聞こえたかと思うと、嘆きの壁の穴が大きく広がった。
その時、アイアコスの冥衣であるガルーダが、細かく震えた。彼は何かに押されるように、少しだけ穴に引き寄せられる。
(他の奴らは動いていない……)
アイアコスは自分の冥衣を見た。
「動きだしたようですね」
ミーノスの方はそんな彼の様子に気がついてはいない。アイアコスは不敵な笑みを浮かべる。
「神々が喧嘩を売ろうと言うのなら、買うまでだ」
彼の冥衣は確実に穴へ入ろうとしているのだ。それを止める気は、彼にはない。
こんな面白い現象を逃す方が、勿体ないとすら思っているのだ。
ところが穴から出てきたのは、そのライミ本人。
戦闘態勢だった全員が仲間である事に気付くのに、あと一瞬遅かったら彼を敵として抹殺していたかもしれない。
そして彼のワームに黒い霧がまとわりついている。 しばらくしてそれは空気に溶け込むように消えた。
「それはデスクィーン島のか?」
身に覚えのある二人は、この穴がかの地に繋がっていると瞬時に判断した。
ライミはゼイゼイと肩で息をしながら、穴の中で何を見たのか告げる。
「アイアコス様にミーノス様。この穴の中に……黒い聖域が!」
「黒い聖域?」
「そうです。あれは聖域だった」
そして穴はその色を変えようとしていた為、アイアコスは慌てて穴に飛び込んだ。 咄嗟に穴が封じられる思ったからである。
「アイアコス!」
ミーノスが彼を止めようとした瞬間、穴は他の冥闘士たちを拒絶するかのように、見えない壁を作る。
アイアコスのみが穴に入ってしまう。 そしてそれは色を変えて、嘆きの壁自体にゆっくりと広がり始めた。
「ミーノス様。アイアコス様は!」
「彼については、私が探します。 それよりこの現象の方が問題です」
嘆きの壁を浸食しているモノの正体が、判らないのである。
(エリュシオンへの道のように、冥闘士たちを消滅させる力を持っていたら……)
しかし、その浸食は壁全体を覆い尽くすと、そのまま今度は動かなくなってしまった。
結局、花畑もかなり浸食を受けたが、花のない所でその広がりが収まったという報告を受けて、ミーノスはこれからどうしようかと考えた。
(ラダマンティスにはパンドラ様の護衛をして貰わなければならない。 アイアコスは穴に入ってしまった。
もしかするとデスクィーン島へ行ったのかもしれない。
まぁ、これは推測でしかないが……)
その時、彼の脳裏にデスクィーン島で見かけた石像の姿が思い出された。
(……あの地を再調査しなければなりませんね)
ミーノスは口の端を少々歪めて、微笑んだ。