暗闇に支配されているデスクィーン島に生き物の気配はない。 蠍座のミロは、まだ回復しきってない身体で再びこの地へやって来た。 どうして白羊宮にいたのかは判らないが、様子を見る為に外へ向かった時、光の乱舞が起こる。
そして身体が少しだけ楽になった。 もう反射的にここへやって来たといって良い。 (……) 自分が暗黒の気に包まれた時、そこから自分を助けてくれたのは老師だった。
だが、その為に老師の方が捕らえられてしまう。 (サガの奴、何処にいるんだ……) 敵を倒さないうちは聖域へは戻らない覚悟で、ミロはこの島へ舞い戻ってきたのである。
聖域に反旗を翻し、仲間を傷つけた罪を償って貰わねばならない。 そう考えた時に、彼は星矢たちがアテナと共に聖域へ乗り込んで来た時の事を思い出した。
(結局、俺たちは同罪か? サガ……) どうする事も出来なかったと言って済む問題ではない。 この世の正義を守る為に存在する聖闘士が犠牲者ばかりを増やし、そのうえアテナに危害を加えたのである。
シャイナの弟子は自分の命と引き換えに星矢を救い、アテナに味方したというのに……。 弟子の墓の前で、茫然としていた彼女を思い出す。 泣く事も出来ずに、ただ立ち尽くしていた優しい女聖闘士。
(感傷に浸る暇は無い) ミロは自分の背後に何かがいる事を察した。
「蠍座が来るとはな」 そこには黒い闘衣をまとったサガが立っていた。
それは禍々しい妖気を放つ邪悪そのものの姿。 「貴様……」 「諦めてしまおうかと思ったが、もう少しだけ様子をみさせてもらうぞ……」
彼は楽しそうに笑った。 そして次の瞬間、戦闘は開始されたのである。
辺りに光と大地が砕ける音が響く。 死の女王の島にて、破壊の神が舞い降りたかのような闘いだった。
そして勝敗は意外なきっかけで、簡単に終了した。 大地が大きく揺れて、ミロが地面の割れ目に呑み込まれたのである。 彼自身もまた、この展開を予想していなかった。
「……妖気どもが活性化している。 何かがこいつらに力を与えているのか?」 ミロを捕まえ損ねたのは失点だが、暴れる妖気を無理矢理押さえる事は自分自身を危険に晒すので、彼はこれらが大人しくなるのを待つ事にした。
いきなり右肩に微弱な痛みが走る。 今まで気がつかなかったが、闘衣の右肩部分に小さな穴が開いていた。 考えられるのはアフロディーテのバラとミロの攻撃。
この二人には同じ所を攻撃されている。 (蠍座は、わざとここを狙ったのか) この地にいる限り不滅である筈の闘衣が損傷するのは、彼にとって驚くべき事だった。
(さすがはアテナの黄金聖闘士だな……) 彼は右肩を押さえた。手が青白く光る。 そして肩に痛みは無くなった。 しかし、闘衣の小さな傷は直らない。
(……) 光らなくなった左手を見る。 あの光が何なのか彼自身、判らないからである。 そのうち、大地の振動と共に一部の妖気はある一点を目指すかのようにデスクィーン島から飛び出した。
(どうやら、こいつらは再び何処かを目指しているようだな……) 直ぐに追えば目的地が判るかもしれない。 彼は直ぐさま妖気たちを追う事にした。
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