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青の大地 3

神という立場である以上、人間の抵抗など何の障害にもならない。
ただ、人間がそういう意思表示をしたと認識するだけである。
エリスは問答無用で絵梨衣の記憶を封じる事が出来たのだが、それをする事は躊躇われた。
(あのような真似は、二度としないと誓ったからな……)
エリスは忌まわしい過去を思い出した。
自分の手から渡された水を飲む少女。 彼女は自分に全信頼を寄せていた。
だから何の疑いも無く飲んだのである。 記憶を抹消するレーテーの水を……。
エリスは再び絵梨衣の事を厳しい眼差しで見る。
「依代。私と勝負をするか?」
人間相手に無茶な事をいう女神である。
「勝負……ですか?」
「そうだ。 その勝負に勝てば、お前の悪夢のみを封じてやろう。
だが、負けたらお前にはキグナスとは関わらない人生を歩んでもらう」
やはり一方的な勝負である。
だが、絵梨衣も覚悟を決めたらしく、エリスの事をじっと見ていた。
「私が勝ったら、悪夢を封じる前にあの夢の意味を教えて下さい。
それでしたら負けた時の条件をのみます」
争いの女神は一瞬驚いた後、楽しそうに笑った。
「この私相手に条件の変更を願うか。 良かろう。お前が勝ったら私の宝をお前に見せよう」
ナターシャは不安そうに絵梨衣の方を見る。
「心配するな、キグナスの母親。 勝負といっても体力勝負ではない」
そう言って女神は絵梨衣の目の前に、一粒の黄金を見せた。
「受け取れ。 お前がその黄金を左右どちらかの手に隠すのだ。
私が外したら、お前の勝ちだ」
単純な勝負だが、疑えばきりの無いモノでもあった。
だが絵梨衣は女神との勝負を決意した時から、その不平等さは覚悟している。
(たとえ勝てなくても、やらなくっちゃ……)
絵梨衣は指で黄金を弾くと両手で掴み、そしてエリスの前に両方の握り拳を差し出した。
「では、黄金はこちらにあるな」
エリスは薄く笑いながら片方を指さした。

系統の違う闘士たちが同じ人物を探しているという事に、アレクサーは少しだけその人物に興味を持った。
「こんなところで闘士にウロウロされては、ブルーグラードの民が不安を感じる。
仕方ない、協力しよう。」
意外な言葉に氷河は驚く。
「アレクサー……。お前、昔と変わったな」
「……お前に驚かれると非常に腹立たしいが、本来ブルーウォーリアは極寒に住む民を守る為にいる。
あの時はその守り方を間違えたがな……」
彼は一瞬、苦渋に満ちた表情をした後、踵を返した。
「どうするんだ、氷河」
「行くさ。 今はどんな事でもやってみるつもりだ……」
こうしている間にも恋人は死の危険に晒されているのである。
夢の中で母親が引き止めていると言ってくれたのが、唯一の慰めであった。
(マーマ。絵梨衣を守ってくれ)
彼はアレクサーの後をついて行く前に、広大な氷原を振り返った。