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神という立場である以上、人間の抵抗など何の障害にもならない。 ただ、人間がそういう意思表示をしたと認識するだけである。 エリスは問答無用で絵梨衣の記憶を封じる事が出来たのだが、それをする事は躊躇われた。 (あのような真似は、二度としないと誓ったからな……) エリスは忌まわしい過去を思い出した。 自分の手から渡された水を飲む少女。 彼女は自分に全信頼を寄せていた。 だから何の疑いも無く飲んだのである。 記憶を抹消するレーテーの水を……。 エリスは再び絵梨衣の事を厳しい眼差しで見る。 「依代。私と勝負をするか?」 人間相手に無茶な事をいう女神である。 「勝負……ですか?」 「そうだ。 その勝負に勝てば、お前の悪夢のみを封じてやろう。 だが、負けたらお前にはキグナスとは関わらない人生を歩んでもらう」 やはり一方的な勝負である。 だが、絵梨衣も覚悟を決めたらしく、エリスの事をじっと見ていた。 「私が勝ったら、悪夢を封じる前にあの夢の意味を教えて下さい。 それでしたら負けた時の条件をのみます」 争いの女神は一瞬驚いた後、楽しそうに笑った。 「この私相手に条件の変更を願うか。 良かろう。お前が勝ったら私の宝をお前に見せよう」 ナターシャは不安そうに絵梨衣の方を見る。 「心配するな、キグナスの母親。 勝負といっても体力勝負ではない」 そう言って女神は絵梨衣の目の前に、一粒の黄金を見せた。 「受け取れ。 お前がその黄金を左右どちらかの手に隠すのだ。 私が外したら、お前の勝ちだ」 単純な勝負だが、疑えばきりの無いモノでもあった。 だが絵梨衣は女神との勝負を決意した時から、その不平等さは覚悟している。 (たとえ勝てなくても、やらなくっちゃ……) 絵梨衣は指で黄金を弾くと両手で掴み、そしてエリスの前に両方の握り拳を差し出した。 「では、黄金はこちらにあるな」 エリスは薄く笑いながら片方を指さした。 |
系統の違う闘士たちが同じ人物を探しているという事に、アレクサーは少しだけその人物に興味を持った。 「こんなところで闘士にウロウロされては、ブルーグラードの民が不安を感じる。 仕方ない、協力しよう。」 意外な言葉に氷河は驚く。 「アレクサー……。お前、昔と変わったな」 「……お前に驚かれると非常に腹立たしいが、本来ブルーウォーリアは極寒に住む民を守る為にいる。 あの時はその守り方を間違えたがな……」 彼は一瞬、苦渋に満ちた表情をした後、踵を返した。 「どうするんだ、氷河」 「行くさ。 今はどんな事でもやってみるつもりだ……」 こうしている間にも恋人は死の危険に晒されているのである。 夢の中で母親が引き止めていると言ってくれたのが、唯一の慰めであった。 (マーマ。絵梨衣を守ってくれ) 彼はアレクサーの後をついて行く前に、広大な氷原を振り返った。 |