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祈り 3

宿屋にさせてもらっている家に戻った途端、ソレントは大きな溜息をついた。
「別にそんなに慌てなくても良いと思うよ」
ジュリアンもいきなり走らされたので、少々肩で息をしている。
イオは鱗衣を装着したままだったので、別の騒ぎが起きるかと警戒していたが、どうやら伝令が聖闘士たちに届いていたらしく呼び止められる事は無かった。
「さっき、イオと同じ鎧を着た人がいたね」
又してもジュリアンは、ソレントとイオの心臓を止め兼ねないセリフを言う。
「やはり海管轄の人?」
「そ、そうです……」
肯定はするが、それ以上は言わない。
イオはジュリアンの傍にいる事の大変さを痛感した。
(セイレーンはこんな緊張の日々を送っていたのか?)
そこへ聖域独特の古代ギリシャの服を着た老婦人が三人を出迎える。
食事の用意は出来ていると彼女は言ってくれた。
「いつもすみません」
ソレントは礼を言う。 すると彼女は自分の孫が戻ってきたようで、とても楽しくて嬉しいと言ってくれた。
ほのぼのとした雰囲気に、イオは少々面食らってしまう。
(ポセイドン様がジュリアン様の中に居るんじゃないかと思ったのは、気の所為か?)
彼は、海皇がこのような人間の生活を平気でしているとは考えられなかった。

そしてソレントの方は、先程のオルフェの反応を見て一つの仮説を考えていた。
(エウリュディケーさんはあの聖闘士の知り合いなのか?)
それだと、やたらと琴座に縁のある女性だと思う。
(僕らは無事復活出来たから、後は女神たちが戻ってくれば試練は終わってエウリュディケーさんは懲罰の鎧を外す事が出来る筈……)
だからといって他の女神の側近となっている女性が、聖闘士に再び逢う事が出来る等とお気楽な事はソレントも考えてはいない。
(でも女神同士に交流が無ければ、下の者は偶発的な事でも無い限り接触はほとんど不可能だ。
しかも、女神ヘカテは用事が済めば再び眠りについてしまうらしい……)
精霊である側近のエウリュディケーが女神と共に眠るであろう事は、容易に想像がつく。
(多分、あの二人は二度と逢えない)
ソレントはフルートを入れたケースを見つめた。。

社殿では星華がちょっと困惑しながらも、眠っている少女に付き添っていた。
(私で良いのかしら?)
その少女が社殿に連れて来られた時、彼女は弟の星矢が用事があるからといって社殿を出て行ったので、自分はどうしようかと考えていた。
ここに居たほうがいいのかもしれないが、何もやる事がないのは何やら申し訳ない気がしたのである。
そこで彼女は神官に自分に手伝える事は無いか尋ねたら、この少女の所へ案内された。 少女の身体を取り巻く金色の光は、神官たちの言葉を借りれば『神気』のようなものらしい。
そんな重要人物の傍に自分が居ても良いのかと思ったのだが、少女が目覚めた時に傍にいるのは神官よりも同じ年齢の女性の方が良いと説明されて、星華は納得する事にした。
何よりも眠っている少女に親しみを感じたからかもしれない。
(エリイさんて言っていたわね)
星華は恐る恐る少女の光に手を伸ばしてみた。
光がどんなものか興味もあったが、世話を頼まれた以上彼女に触れないのは問題だったからである。
光は星華の手のひらを照らす。 熱も冷たさも感じなかったが、何かの流れが光にある事は判った。
そのまま彼女は少女の腕に触れてみる。
その時、光が星華の腕を伝って彼女の目の前で弾けた。