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絵梨衣は時々、残酷な夢を見る。 それをいつから見るようになったのかは、もう思い出せない。 その夢とは、大勢の人間が血を流して倒れているのである。 あまりの残酷さに目を背けたくなるのだが、彼らのまとっている鎧はかなり古い時代のように見えた。 誰かが自分を罵っている。 『貴様の所為で!』 その言葉だけははっきりと判る。 美穂に心配させたくなくて黙ってはいるのだが、どうやら彼女も何かに気づいている気はする。 彼女に話せば、それはただの夢だと笑ってくれるかもしれない。 しかし、それを言われたら自分の悲しみや苦しみも笑われているように思えて、どうしても話す事が出来ないのだ。 女友達にすら言えないのだから、恋い慕う人に言う事など論外である。 ただ、最近見るのはその人の姿も一緒に出る事が多い。 (氷河さんが、血だらけで立っている) そして彼は自分の事を睨み付けていた。 (私、嫌われているの?憎まれているの?) 心が痛む。 そして目覚めると、これはただの夢だと自分に言い聞かせる。 しかし、あれだけは彼の気持ちなのではと考えてしまう。 本人に尋ねようかと考えるが、そんな事が出来るわけがない。 彼は自分の前では優しい笑顔を見せてくれるのだから……。 また、金色の光が何かの象徴ののように出てくる夢も見る。 だが、その光が出てくる時は、だいたい場面は何処かの国の結婚式。 花嫁は自分を見て、とても嬉しそうに笑う。 だが、参列者達は表情こそ判らないが、自分の存在を良しとしていない事は感覚的に理解出来た。 『何故、あれがこの結婚式に来るのだ』 自分に向けられた冷たい言葉。 絵梨衣は恥ずかしさと悲しさで、その場を立ち去りたいと考えるのだが、身体は思うように動かず、参列者達の冷たい眼差しと言葉を受け続ける。 『あれは災いを呼ぶ』 参列者の一人が自分に向かってそう言った後、彼女はようやくその夢から解放されるのである。 少しずつ、大地が光に変わる光景。 (いつもの夢と違う……) 金色の光ではなく白く暖かそうな光。 場所も結婚式の場面ではなく、穏やかな花畑。 ここには自分を蔑む者はいない。 一人っきりだったが、何処か心地よかった。 (なんて綺麗な景色なの) もう直ぐ光は自分のところにやってくる。彼女はその光を海の波のようなものだと思っていた。 しかし、その時誰かが光を凍らせて、自分を抱きしめたのである。 「お嬢さん、あれは死の光です。呑み込まれたら駄目です」 女性の声に絵梨衣は驚く。 「えっ!」 誰かが自分を守ろうとしてくれているらしいのだが、姿がはっきりと判らない。 この時彼女は今まで光だと思っていたものの姿を見た。 そこにいたのは凍りついた亡者。その姿は夢の中の男たちと同じような姿をしていた。 そしてそれは一人二人という数ではなかった。 (な……何なの……) 数えきれない数の亡者が、絵梨衣に向かって武器を使おうとして凍らせられたのである。 だが、その光景は直ぐに変わった。彼女の周囲は霧の世界になる。 「お嬢さん、目を開けるのです」 その女性は絵梨衣の頬を何度か軽く叩いた。 絵梨衣はびっくりして自分は起きていると言おうとした。 しかし、今度は口が動かない。身体も動かせない。 そして、自分自身が瞼を閉じている事に気がついた。 夢の中で夢を見ていたというべきか。 (目を覚まさなきゃ!) だが、指一本動かす事が出来ない。 |