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そしてカノンはオルフェを見て、エウリュディケーの事を思い出す。 (こいつが、あの女の恋人か……) カノンは黄金聖闘士に匹敵すると言われた男をじっと睨み付けていた。 「ダイダロス先生、教皇シオンをご存じだったのですか?」 瞬がその意外な人間関係に驚いていると、ダイダロスは弟子に向かって微笑んだ。 「私もオルフェも、幼い頃シオン様には可愛がって貰った。 どのような姿だろうと、懐かしい小宇宙で本人だと判る」 「お前達は昔から聡い子等だったな」 シオンはそう言って、自分の弟子のムウの方を見る。 (厭味な人だ) ムウはそう思いながらも、とぼける事にした。 「ところで二人が無事だったのは嬉しいが、ここへ来たのは私に挨拶をする為ではあるまい」 シオンに言われて、瞬は紫龍の方へ駆け寄った。 「紫龍!身体が回復していないのは判っているけど、オルフェと一緒に五老峰へ行って欲しいんだ」 その依頼に紫龍は、琴座のオルフェの方を見た後頷く。 「判った。俺も春麗の様子を知りたい。 アルデバランから向こうに貴鬼がいると聞かされているが、自分の目でどうしても確かめたいんだ」 実を言えば、身体が少し軽くなったような気がしている。 目覚めた直後の時よりは、呼吸も随分楽になっていた。 シオンは紫龍の方を向いたまま、自分の弟子に尋ねる。 「ムウ。童虎の弟子は何を言っているんだ?」 声のトーンがやや低い。 ムウは首を傾げながらも、正直に答えた。 「師シオンには、まだ話していませんでしたが、老師のところには養女がいます。 実は彼女の身を案じた老師から、私の弟子をボディガード役にと要請がありまして今……」 その時、その場にいた全員が、シオンの身体から何か激しい気が迸っているのに気が付く。 「あのバカ虎! あれ程、春麗を手放せと言ったのに、まだ手元に置いていたのか!」 シオンの怒りにムウと紫龍は驚く。 「どういう事ですか!」 春麗を妹とも思って大切にしているムウは、自分の師の言葉が信じられなかった。 「教皇シオン!」 紫龍もこの発言は聞き捨てならなかった。 「とにかく、オルフェはどうして五老峰へ行きたいのだ?」 話をいきなり変えられて、ムウも紫龍もオルフェも面食らう。 「あっ、海将軍の方が教えてくれたのですが、僕の恋人が五老峰の知り合いという方に何かを預けたそうなので、受け取りに行きたいのです」 教皇に堂々と恋人の話をするオルフェはかなり剛の者のようである。 カノンは咄嗟にオルフェの前に立った。 「オルフェ。お前の恋人は、冥界の花畑にいた女か?」 いきなり尋ねられて、瞬と星矢とオルフェは驚く。 「理由は後で話す。答えろ!」 カノンの迫力に、オルフェは弦の切れた竪琴をきつく握った。 そして彼は頷く。 「教皇!五老峰へ行ってくる」 そう言ってカノンは紫龍とオルフェの腕を掴む。 「待ちなさい。カノン!」 ムウは引き止めようとするが、既に三人の姿はない。 「ムウ、私も行ってくる。 キグナスの方で動きがあったら連絡をしろ」 シオンまでもが、あっという間に階段を駆け降りて姿を消してしまった。 ムウは咄嗟にシュラとデスマスクの方を見る。 「ここは我々が守る。アテナの傍にはアルデバランが常にいるから心配するな」 シュラは薄く笑った。 彼も光の後、身体の痛みがしなくなっていた。 (エリスが助けてくれたのか?) どうにも何を考えているのか判らない女神である。 「あの小娘ならどうって事ないと思うが、心配なら行け」 デスマスクはさっさと行けという仕種をした。 |