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覚悟 1

シオンが十二宮前の広場に戻ったのは、瞬とアイザックが聖域の町の方へ向かい、氷河が絵梨衣を抱えたまま社殿へ行った後だった。
そして現場を見た彼は、沙織を腕に抱きかかえているシュラに一瞬驚いたが、直ぐに気を取り直す。
「アルデバラン、アテナを頼む」
シオンは直ぐさま沙織をアルデバランに託すようシュラに命じる。
「アルデバラン。アテナから絶対に目を離さないでくれ……」
シュラの言葉に、牡牛座の黄金聖闘士は頷く。
そしてその命令にムウは、ある事を思い出した。
「ミロを放りっぱなしでした!」
ムウは慌てて自分の宮へ戻った。
「どうやら動ける聖闘士はごく僅かのようだな」
シオンはそう言ってカノンの方を見た。
「今直ぐに動ける黄金聖闘士は、俺とムウとアルデバランの三人。ミロとシュラは冥闘士たちの協力により、奴の支配する戦闘空間から離脱出来たが、満身創痍の状態。
アイオロスはまだ戻ってない」
一応カノンはシオンの問いかけに素直に答えた。
戦場で命令系統を混乱させる事は避けたかったからである。
自分が咄嗟にそういう計算をしている事に、カノン自身、不思議な気がした。
「冥闘士だと?」
カノンの言葉にシオン、星矢、紫龍、一輝は驚く。
「向こうはその事に関しては、敵意を持って関わった訳ではないと言っている。偶発的事故だそうだ」
シオンは本当に偶発的なのか怪しんだが、ここで黄金聖闘士の言葉を否定する理由はない。
「判った。カノンの言葉を信じよう」
その時、ムウが白羊宮から戻ってきた。
「ミロがいません! 再びデスクィーン島へ行ったようです」
これにはカノンとシュラが頭を抱えた。
「あいつの気性は判っていたつもりだが、目を離したこっちが迂闊だったな」
カノンはそう言いながらも、彼を運んだのは自分なので怒りが収まらない。
(この一件が終わったら、スニオン岬にぶち込む!)
彼の暗いオーラを感じて、近くにいた星矢と紫龍は思わず身を引いてしまった。
そこへ物凄い勢いで金色の光が階段を駆け上がってきた。
「デスマスク!」
紫龍は縁のある黄金聖闘士の登場に、かなり驚く。
「デスマスク!無事だったのか」
シュラが彼に声をかける。
「あまり無事とは言えないが、一応な。それよりあの性悪女神はいるか!」
デスマスクは周囲を見回す。その時シオンと目が合った。
シオンは口の端で少しだけ笑い、デスマスクの背中には悪寒が走る。
「失礼な奴だな。誰の事を言っているんだ」
二人の間の険悪を察したのか、シュラがデスマスクを諫める。
原因は別にあるのは、その場にいた全員が勘付いているのだが……。
「エリスだよ! アイオロスからの伝言だ。
サガを助けたければ、あの性悪女神を味方に付けろだとよ」
気を取り直したデスマスクの言葉にその場にいた全員が驚く。
「何だって!」
一度敵対した事がある星矢たちに至っては、驚きを通り越してパニック寸前だった。
「それでアイオロスは!」
シュラがデスマスクの肩を掴む。
「判らん。奴に掴まったのか、それとも違うのか。 向こうの事情は判らない」
デスマスクは正直にその場の様子を伝える。
掴まったのか、隠れているのか。 その場にいた全員が、最悪の事だけは考えたくないと思っていた。
星矢に至っては、幾度と無く自分の危機を救って貰った射手座の黄金聖闘士や獅子座のアイオリアが大変な目に遭っていると言うのに、今の自分は体調が万全と言えず身体を動かすのもままならない状態がとても悔しい。
それでも先程の光の乱舞の後、少しだけ気分は楽になったような気はした。
だが、何かで体中を縛りつけられているかのようで、動作が上手くいかない。
「争いの女神をか??
確かに敵にするとやっかいだが、味方に付けろとは……」
カノンは険のある表情をする女神の姿を思い出す。
その時、記憶の中の彼女と別の女性の顔が一瞬すり代わり、そして元のエリスの顔になった。
(こんな時に夢の中のテティスを思い出すなんて……)
カノンは思わず苦笑した。