(本当にジュネさんは眠っているだけなのかな……)
瞬は、だんだんと自分の考えが間違っているような気がしてきた。
しかし、自分の考えが当たっていたとしても、どうしたらいいのかが思いつかない。
「もう一回、ヒュプノスに会ってみようかな」
そうすれば何か分かるかもしれない。
彼が覚悟を決めて椅子から立ち上がったとき、その背後に強い小宇宙を感じた。
「お前が行ったところで、ヒュプノス兄上には会えないぞ」
そこに立っていたのは、争いの女神だった。
彼は驚きのあまり言葉が出ない。
エリスは我関せずとばかりにジュネに近付く。
「アンドロメダに言っておくが、実はヘカテ様はカメレオン座の聖闘士をタナトス兄上の嫁にしようかと思っていたらしいのだ」
「はぁ?」
エリスの言っている意味がわからず、瞬は間の抜けた返事をしてしまう。
「ところがお前が連れ去るのをタナトス兄上が手助けしたものだから、ニンフたちが兄上を優しい神様だと言い出した。
それで今、タナトス兄上が非常に荒れている」
その様子が、瞬には手に取るように分かる。
「……それで?」
「おかげで後始末の役目を負っていたヒュプノス兄上が、とばっちりを食らって役目を果たせなくなったのだ。
だから私が代わりに来た」
衝撃の事実に、彼は思わず拳を握りしめる。
しかし、どこをどう怒って良いのかわからない。
そんな彼に構わずに、エリスはジュネの額に手をおく。
そしてすぐに手を離した。
「後はお前が名を呼べば、直ぐにでも目を覚ますだろう」
争いの女神は瞬の前から姿を消す。
まるで最初から何も無かったかのように、部屋に静けさが戻った。
瞬は、恐る恐るジュネの名を呼んだ。
すると、さきほどまで無反応だった彼女の瞼が小さく動いたのである。
わずかな反応ではあったが、嬉しさで心が騒めく。
「ジュネさん!」
もう一度名を呼ぶと、今度はゆっくりと目を開けたのだ。
「……瞬?」
「そうだよ」
感極まって、瞬はジュネに抱きつく。
あとはもう、いろいろな感情が入りまじってしまい、彼はそれ以上何も言えなくなってしまった。
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