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続・神託 2

「久しぶりだな。遊びに来た」
彼女の言葉に、沙織は女神ヘカテの管理する冥界での出来事を思い出す。
「……エリス……。
どうして貴女がここに……」
茫然としてしまい、それしか言葉が続かない。
この時、春麗が女神エリスに駆け寄った。
「エリスさん……」
彼女は感激のあまり、涙が溢れて抑えられなかった。
「よく頑張ったな。偉いぞ」
エリスの表情は、とても優しかった。

「絵梨衣ちゃん。あの方を知っている?」
美穂が戸惑ったように尋ねる。
絵梨衣もしばらく考えてから、
「みんなの先生」
と、答えた。

「ところで、お前たちの言う『デウス・エクス・マキナ』(機械仕掛けで登場する神)役が、あと百年くらいしないと実行出来そうにない。
略式でもいいなら私がこの場で終わらせるが、どうする?」
意味不明の提案に、沙織も返事のしようがなかった。
そこへエウリュディケーが駆け寄る。
「お願いがあります。
この杖を、女神ヘカテ様にお返しください」
いきなり杖を差し出そうとするのを、今度はエリスが押しとどめた。
「では、まずは準備を整えよう。
今は時間が早すぎる」
そう言ってエリスはさっさと屋敷の方へと歩いてしまう。
闘士たちはあっけにとられながらも、それに従うしかなかった。


しばらくして、屋敷から一人の聖闘士が聖域に向かう。
そして再び彼が戻ってきたときには、他にも無数の影達が居たのだった。

時間は平穏に流れ、夜はしんしんと更けてゆく。
美穂と春麗、エスメラルダ、ジュリアンが眠りに就いた。
「さて、もうそろそろ始めるか」
エリスは席を立つと、外へと向かう。
するとそこには白銀聖闘士のオルフェが立っていたのである。
「招きにより参上いたしました」
琴座の聖闘士まで呼ばれているのを知らなかった沙織とエウリュディケーはビックリしてしまう。
しかし、エリスはかまわずに遺跡へと向かったのだった。
そして遺跡には既に、教皇シオンと黄金聖闘士達がいた。

今まで一緒に居たサガと童虎を合わせると、十二人全員が揃ったことになる。
これにはカノンたち海将軍も苦笑いするしかない。
「お前たち、全員暇だったのか?」
エリスの第一声は、容赦が無かった。
「ふざけんな!
お前が来いとサガに言ったのだろ」
思わずデスマスクが怒鳴る。
しかし、それを争いの女神は無視した。
アフロディーテが複雑な表情で彼女を見つめる。
この時、シュラにどうしたのかと話しかけられたが、彼は何でもないと答えたのだった。

「まぁいい。どうせ略式だ。
これから始めるぞ」
エリスは呪術の紋様が書かれた床を歩く。
「エウリュディケー。
お前にはヘカテ様の側近として、やらねばならない事がある。
まずはそれからだ」
名を呼ばれ、エウリュディケーは杖を持ったままエリスに近付いた。
「今はこの場所が、お前に力を与えてくれる。
これをアテナに渡せ」
争いの女神が出したのは、アテナの聖衣である小さな像とニケだった。
黄金聖闘士たちに驚きの声が上がる。
エウリュディケーはいったん女神ヘカテの杖をエリスに預けると、その二つを持って沙織の方へ向かった。
「女神アテナ。
聖闘士たちが地上を守護する事を、地上を愛する多くの女神たちが承認しました。
ヘカテ様が預かっていた、貴女の持ち物である聖衣とニケをお返しします」
試練を乗り越え、勝利を得る。
沙織はニケを受け取ったとき、常に自分と一緒に居てくれる女神の姿を見たような気がした。
「……ありがとうございます」
戦の女神は、そう言うのが精一杯だった。
そして聖闘士たちは全員片膝をついて、女神の審判役であった精霊に頭を下げる。

これは人間である聖闘士達が、他の女神たちから信頼を勝ち得たという事でもあった。