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神託 5

双子座と射手座の黄金聖闘士たちが聖域に帰還した。
どうやら行方不明だった青銅聖闘士の一人も戻ったらしい。
(氷河も戻ったから、彼女も大丈夫だろう……)
アイザックは夜明けと共にもたらされた出来事を幾つか聞いた後、海底神殿へと戻った。
これ以上、自分が聖域に居る理由がないと判断したからである。
師匠であるカミュに断りを入れて海底神殿へ戻ったとき、彼は全てが終わったと思った。

アイザックが北氷洋の柱を見る。
今回の一件で少女たちが危険にさらされテティスが怪我を負った事だけは、何とかならなかったのだろうかと思わずにはいられなかった。
自分の判断が何処か間違えていたのではないのだろうか。
もっと安全な方法があったのではないのだろうか。
直接関わらなかった分、それは答えの無い問いかけでしかない。
確かなのは、北に住まう青の姫君は常にこのような思いを抱き続けているという事。
彼はもう少ししたら、夢見がどうなったかを彼女に伝えに行こうと思った。

そこへテティスが慌てた様子で駆け寄って来る。
「クラーケン様」
「どうした」
「今、お時間はありますか?」
彼女の肩には包帯が巻かれており、見た目にも痛々しい。
「……テティスに怪我をさせてしまったな。
すまない」
急にアイザックに謝罪されて、彼女はビックリしてしまう。
「私なら大丈夫です。クラーケン様が気に病む事はありません。
私も海闘士の一人なんですから……、これくらいの怪我は覚悟の上です。
私の方こそ、十分なお役に立てなくて申し訳ありません」
そして大丈夫だという意思表示に肩を動かそうとしたが、傷が痛むらしく動きが良くない。
アイザックはその動きを止めさせる。
するとテティスは伏目がちに言葉を続けた。
「あの……、こんな事を言うのは失礼だとは思いますが……。
クラーケン様にお願いがあります」
「何だ」
「聖域からジュリアン様とセイレーン様を外へ出させる事になったのですが、どうも聖域周辺に正体の分からない人間がうろついているそうです。
聖域はこちらにも協力を依頼しましたが、今の私では足手まといになりかねません」
「……難しい任務なのか?」
「はい。敵の規模が思ったよりも大きいそうです。
でも、ジュリアン様の前で鱗衣を身につけるのは、なるべく避ける必要があります」
「わかった。俺が行こう」
アイザックは海底神殿へと向かう。
その後ろ姿を見ながらテティスは、
(クラーケン様、ごめんなさい)
と手を合わせて謝ったのだった。