強制的に少女たちを聖域の外へ移動させる。
それに安全性が加わると、すぐにというわけには行かない。
しかし、老婦人が行方不明だという情報が伝わると、今度は神官も女官たちも素早く団結をした。
昼頃には美穂たちを外へ連れて行くことが出来るようにまで準備が調えられたのだった。
シオンは彼から渡された書類に目を通して驚きの声をあげる。
「童虎。お前はいったいどんな呪術を使ったんだ?」
神官たちと話をしてくるといった天秤座の黄金聖闘士は、戻ってきたときには計画書を携えていた。
そこには聖域からの脱出ルートと宿泊施設までが書かれている。
「そんなもの使ってはおらん。
ただ、昔話をしたまでじゃ」
「昔話?」
「遥か昔の話じゃ。
この聖域にやってきた女神の一柱が傷つけられるという事件があって、その時代の屈強な聖闘士ですら防ぐことが出来なかった。
だから、どんなに人間が頑張っても聖域では敵から少女たちを守るのは難しい。
現に"あの方"が行方不明になっておる。
ワシらは少女たちが安心して生きて行ける世界を守るために存在するのだ。
彼女たちをここに閉じ込めるのは、聖域に関わる者のする事ではないと言ったら判ってくれたよ」
「……」
「そう言うことで女神と春麗も外へ出すから、ワシが保護役として同行する。
了承しておいてくれ」
計画書にも、既に童虎の名が組み込まれている。
シオンとしては異を唱えて時間を浪費したくはないので、
「わかった」
と答えた。
彼はしばらく書類を見直した後、再び友人に問う。
「童虎……」
「なんじゃ」
「聖域にやってきた女神の一柱が傷つけられるという事件というのは、誰から聞いたのだ?」
童虎は友人の疑問に小さく笑った。
亡霊聖闘士となってまで聖域のために動いてくれた者たちの事は、簡単に説明出来るものではない。
「この間、古い知り合いが聖域に来てくれたんじゃよ。
この人物の説明すると長くなるから、また今度のときにでも酒でも酌み交わしながら説明をしてやろう」
「分かった」
「お前、確かジャミールの館に秘蔵酒を隠していたな」
「……その場所をお前の弟子に壊されたと、ムウが言っていたぞ」
シオンの睨み付けるような眼差しに、童虎は返事が出来なくなってしまった。
そこへ紫龍が童虎を呼びに来る。
彼らの間に流れる緊張に、紫龍は何か重苦しい雰囲気を感じ取ったのだった。
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