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続々・秘計 5

ところがアイアコスの握っていた髪が、いきなり刃物でも当てられたのかスッパリと切れたのである。
「えっ!」
オルフェは何事かと思ったが、彼はそのまま彼女の髪を鳥籠に入れた。
籠の底に女性の髪が散らばる。
そしてアイアコスは鳥籠に向かって、命じたのである。

「女の髪なら媒体に出来るはずだ。
元に戻らねば、ガルーダは餌として貴様らを追い続けるぞ」

一瞬の静寂の後、切られた髪に黒い粒子が集まり始める。
そして二匹の蛇になった後、今度は石の蛇と金の鳥籠を巻き込んで杖へと変貌を遂げたのである。
この現象に傍にいたオルフェや他の聖闘士たちは言葉が出なかった。

「あの方は呪術が使えるのですか?」
春麗が思わずミーノスに尋ねる。
しかし、彼は首を横に振った。
「あれは呪術ではありませんよ。
ただ、力を発動するための媒体が蛇のときに限り、彼の脅迫は非常に有効です」
どのような力を持とうとも、ガルーダにとっては蛇の形であるかぎり摂取する側という認識なのだ。
そういう絶対的な上位者ゆえに、アイアコスの脅迫に女神ヘカテの杖である蛇たちは逆らえない。
黒い粒子が消え、一振りの杖が大地に横たわる。
それは黒を基調に金色の筋が幾重にも入った美しいものだった。
同時にオルフェの腕の中で、恋人が動く。

「ユリティース……?」
オルフェの呼びかけにマントが下へ落ち、美しい女性の顔が現れた。
「……オルフェ……?」
愛しい女性との再会に、オルフェは涙が零れて止まらない。
ユリティースは何が起こったのか分からず、周囲を見た。
「アイアコス様……」
傍にいるガルーダの冥闘士に彼女は驚く。
しかし、アイアコスは何事も無かったかのように立ち上がった。
「ユリティース……。いやエウリュディケーだったな。
女神ヘカテの杖はお前から女神に返しておいてくれ」
大地を横たわる杖を見て、彼女は自分の手を見た。
そしてその手で自分の頬に触れる。
「アイアコス様、これは……」
「それからそこの男に、こっちに迷惑をかけるなと教育をしておけ。
今度はハーデス様がいくら許しても、俺が絶対に許さないからな」
彼はそれだけをいうと、その場から姿を消した。
ミーノスもまた森の方を見た後、
「それでは日を改めて挨拶に伺います」
と言って消えてしまう。

数秒後、森から沙織たちが現れる。
この時、この場にいる全ての者達が、運命の女神達が紡ぐ糸を見たような気がした。

邪武は今まで持っていたランプを覗く。
いつの間にか火は消えていた。
だが、確かに火を移したはずなのに、ランプの芯は使われている様子が無かった。