「オルフェさん……」 春麗はエウリュディケーの恋人である青年の存在に驚く。 「春麗さん。彼女はユリティースなんですね」 彼の問いかけには迷いが無い。 しかし、シュラはオルフェに彼女を渡すのを躊躇った。 「琴座。彼女の姿は以前とは違う」 「構いません。僕に渡してください」 むしろオルフェの目つきは、シュラに対して嫉妬をしていた。 他の男が恋人に触れていることの方が、彼には我慢できなかったのだ。 シュラは仕方なく、エウリュディケーをオルフェに渡す。 彼は恋人を受け取ると、その場に膝をつき彼女の頭を抱え抱きしめた。 「教えてください。 ユリティースの身に何が起こったのですか……」 しかし、その問いの意味に正確に答えられる者は居ない。 アイオロスがオルフェの前で片膝を付く。 「彼女がこうなったのは、このアイオロスの失態が招いたものだ。 私は黒く長い影が彼女に入り込むのを防げなかった」 エウリュディケーはそのまま意識を失ったという。 春麗を庇っての行動だった。 二人の話を聞いていた彼女が、涙を零しながらオルフェに謝る。 「春麗さん。貴女が無事で良かった」 オルフェはそう言って、再び恋人を強く抱きしめたのだった。 |
廃墟となった神殿跡。 そんな静かな場所に、二つの黒い影が舞い降りた。 この来訪者に聖闘士達は、何事かと身構える。 ただ一人、彼らの間に漂う緊迫感をあまり理解していない春麗が、顔の知っている青年の名を呼んだ。 「ミーノスさん!」 グリフォンの冥衣をまとう青年は、春麗の呼ぶ声に気がついた。 「これは春麗さん」 ミーノスはシオンの方をちらりと見たが、そのまま春麗の方へ近付く。 もう一人の青年は石のようなものの入った金色の鳥籠を持って、オルフェの背後に立ったのだった。 「オルフェ。久しぶりだな」 「……」 アイアコスの挨拶にオルフェは答えない。 だが、ガルーダの冥闘士は特に気にしてはいなかった。 「本来ならお前の望みを叶える謂われはないのだが、借りは返さねばなるまい」 アイアコスはオルフェの前に移動すると、マントから出ているエウリュディケーの髪を掴んだ。 「何をする!」 「ユリティースを助けたいなら黙っていろ」 間髪入れずに怒鳴られて、オルフェは口をつぐんだ。 アイアコスは何かを呟き始める。 それは異国の言葉なのか、オルフェには何を言っているのか分からなかった。 しかし、冥界において三巨頭たちはユリティースに危害を加えようとしたことは一度も無かった。 その記憶がオルフェの行動を思い止まらせる。 |