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続々・秘計 3

森の木々が風でざわめく。
星矢は何か嫌な予感がした。
聖闘士の移動能力では、女神ヘカテの神殿付近の森はとても小さく感じる。
直ぐに森の外へ出てしまうのだ。
あの黒い物体は何処から出現したのか。
敵の闘士の言うとおり、沙織たちは異世界に閉じこめられてしまったのか。
「まさか……」
考えれば考えるほど、破滅的な思考だけが思い浮かぶ。
彼は絶望の気配を感じながら、神殿へと戻る。
そこには同じように何も見付けられなかった邪武と紫龍が戻っていたのだった。

そして夜は明け、朝日が大地を照らす。
「夜が明けたな……」
シオンは眩しそうに東の空を見上げた。
森も柔らかな光に包まれる。
彼は手に持っていたランプを、高く掲げた。
すでにランプの灯に意味はないかもしれない。
だが、女神ヘスティアの加護する灯りは此処にある。
それはオリュンポス神族が一目おく、絶対不可侵の灯火。
大切な者たちがここに無事に戻ってきて欲しい。
そんな祈りを込めた行為だった。
すると今まで静かだった薮が動き、一人の青年が現れたのである。

「教皇様……」
琴座の白銀聖闘士は、驚いたようにシオンや他の聖闘士達を見る。
「オルフェ!」
シオンが手を下ろそうとしたが、それをオルフェが止めた。
「教皇様。その灯をもっと上に移動させてください。
女神たちはその灯を頼りに戻られます」
彼の言葉に、邪武がランプを受け取って神殿のあった場所の階段まで移動する。
それを見てオルフェはようやっと安心したのか、その場に膝をついたのだった。
だが、女神や少女たちが本当に無事なのかハッキリしない。
思わず童虎が彼に少女たちの様子を尋ねた。

「それが……」
オルフェはどう説明しようか迷う。
春麗と山羊座の黄金聖闘士が行方不明なのは事実なのである。
隠すことは出来ない。
彼は覚悟を決める。
「実は、春麗さんは……」
そこまで口に出した時、別方向の藪が動いた。
そしてそこから一人の青年が出てきた。
「ア……、アイオリア!」
デスクィーン島に行ったはずの黄金聖闘士が何の前触れもなく現れたのである。
星矢たちには何が何だか、さっぱり分からない。
ところが彼の後から、春麗と一緒にアイオロスも現れたのだ。
「春麗!」
「アイオロス!」
紫龍と星矢は二人に駆け寄る。
「オルフェ。いったい何があったんだ」
シオンに尋ねられたが、彼は何も言わずに一点だけを見ていた。
その視線の先には、布に包まれた何かを持ってきた山羊座の黄金聖闘士がいる。
マントから零れ落ちた長い髪にドキリとする。
「まさか……」
彼は吸いよせられるように、シュラの方へ近付いたのだった。