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続・秘計 8

黒い傀儡は森の中をウロウロしていたアイオリアによって、シュラの許まで誘き出された。
アイオリアは何も言わず、シュラの横を通り過ぎて森の中へと消える。

鬱蒼とした森の中で、金色の光と黒い影がぶつかった。

「この世界に二つのスフルマシュは要らない」
シュラは小宇宙を高め、敵に光を放つ。
その時、誰かの言葉が彼の脳裏に届いた。

「あの者を葬るまでは、どれ程の犠牲を出そうとも止まってはいけない」

(これがこいつにとっての重要命令か!)
無差別に殺戮を繰り返すのではなく、目的の人物がいたのである。
その命令の遂行のためには、他の命はどうでも良かったのだ。
もし、この敵が人間で誇り高い闘士ならば、その様なことは主の命令でも行わないだろう。
シュラは背後にいる敵が容易なら無い存在なのだと知った。
傀儡はその身体の表面に幾つかの紋様を浮かび上がらせる。
だが、シュラの小宇宙の力は、傀儡の紋様の力を借りた身体組織の持つ耐久度を遙かに越えていた。
敵の内側からも光が零れる。
そして徐々に、その身体は崩れ始めた。
彼らを取り巻く風が急に強まる。
(こいつに込められていた力が暴走しているのか……)
作り物の手がシュラの腕を掴む。
だが、彼は動じなかった。
「貴様の自爆に付き合うつもりはない」
そう言って山羊座の黄金聖闘士は、ジャンピングストーンで黒い追跡者を投げ飛ばしたのだった。


東の空が白み始め、女神ヘカテの神殿跡では静かに夜が明けようとしている。
「もうすぐ夜が明ける……」
空の様子を見ながら童虎が呟く。
そのとき、突如として強い風が吹いた。
「何だ?」
聖域から新しいランプを持ってきたシオンは、炎が消えないように灯を守る。
そんな彼らの側にあった神殿の壁の残骸に、なにか黒いものが打ちつけられたのだ。
状況の飲み込めない聖闘士達の目の前で、それは崩れ落ちる。
しかし、飛んできた方向には深い森があったが、木の枝が折れたような音は聞こえなかった。
異常事態の発生に、邪武と星矢、紫龍が森へ入る。

「何だこれは……」
シオンが手にとってみると、それは黒い物質で作られた手だった。
彼はデスクィーン島での出来事を思い出す。
「この森で何が起こっているのだ」
風はやむことなく、森の木々を揺らし続けていた。