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続・秘計 2

「それは……」
言葉を濁す女性に、シュラは静かに言った。
「この場限りの嘘は止めて貰いたい。
その様なことをされたら、こちらはこの場で春麗を連れて外へ出なくてはならなくなる」
真実の中に嘘を散りばめられると、人は判断に迷う。
信用しにくくなってしまうのである。
女性にも彼の考えていることは理解できた。
「今、私はこのような姿になっています。 それを知られたくはありませんでした」
エウリュディケーの寂しそうな様子に、春麗は手に力を込めた。
「どんな姿でもエウリュディケーさんはエウリュディケーさんです。
オルフェさんだって……」
「オルフェには言わないでください。 このような姿を知られるのは、とても辛いのです」
昔の面影を止めない、恐ろしいほどに変貌した自分の姿を恋人に見られなく無い。
その気持ちは辛くても春麗にも理解できた。
「ごめんなさい」
春麗はエウリュディケーから手を離す。
彼女だって恋人に会いたくはないはずがないのだ。
二人の会話が一区切りついたところで、ようやっとシュラは一番尋ねたいことを質問した。

「どうやら貴女はアレが何なのか知っているようだが……」
エウリュディケーは首を縦に動かした。
「はい。あれは人が身に纏う闘衣ではありません。
神々が太古に滅びた力ある者達の複製として作ったものなのです」
その説明に、シュラの脳裏で何かが弾けたような気がした。


滅び行く太古の神々。
その力を惜しんだ新しい世界の神々は、彼らの力を奪い彼らに似た偶像を作り上げた。
全滅させるよりも、支配者としての力を誇示する為の道具にしたかったのである。
だが、それらは何故か支配することが出来ず、使用者を危機的状況に追い込む事態が多発する。
それゆえ偶像は封印され、次に作られたのが人が身に纏えるように改良した物だった。
しかし、それも初期作品では支配力が強く、闘士たちの命を糧に好き勝手に殺戮を繰り返した。
今の聖域や海、冥界に存在する闘衣はその経験を踏まえて幾度かの改良を加えられた物なのである。


「誰がその様なことをやったのかは分かりませんが、あの偶像は元々古き王スフルマシュ様の複製として作られています。
そして敵対する者は全て滅ぼすよう命令がされているのです。
お願いします。 あなた様以外に対抗できる方はいらっしゃいません」
エウリュディケーの言葉に、シュラは合点がいった。
スフルマシュは自分と同じような力を持つ存在を嫌悪し、排除したがっていたのである。
理由が分かれば彼がやることは一つだった。
「では、俺はあの偶像を倒す。その間の春麗の安全は確保しておきたい。
頼めるか」
その問いにエウリュディケーは頷く。
「ここなら、木が呪術の力から私たちを守ってくれます。
ただ、この木が直接攻撃されるのだけは避けていただけませんでしょうか」
「わかった」
シュラは春麗に大人しくしていろと言うと、樹洞から出ていった。
「シュラさん……」
春麗に出来ることは、彼の無事を祈ることだけだった。