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続・秘計 1

女神ヘカテの神殿は、ほとんど跡形もなく破壊された。
既に呪術の書かれた紋様は、割れてしまって瓦礫と化している。
そして敵対勢力は、目的を果たしたとばかりに神殿から立ち去ったのだった。

「よもや、女神ヘカテの神殿ごと破壊するとは……」
太古の女神の神殿を粉々にしたのである。
相手が天上界に属する者たちであったという推測は間違いだったのだろうか。
シオンは雨の止んだ夜空を見上げる。
雲の切れ間からは星が見えていた。
シオンが聖域に戻って体勢を立て直すべきかと考えた時、瓦礫の上で若き聖闘士達がなにやら騒いでいた。
「どうしたんじゃ」
童虎が自分の弟子に騒ぎの原因を尋ねる。
すると紫龍もまた、首を傾げながら答えた。
「それが、邪武の持っているランプが何もしていないのに灯りがついたのです」
むしろ、敵の攻撃に巻き込まれたので壊れている可能性が高かったのに、そのランプは小さな明かりを灯していた。
「女神ヘスティアの加護か?」
シオンは彼らに明かりを消さないように言うと、一旦聖域に戻ることにした。
まだ救いは残されている。
ただ、ランプの替えだけは用意した方が良いと判断したのだった。


春麗を抱えて暗い森の中をシュラは走った。
出口を探している筈なのだが、森の中の風景は未だに続いている。
だが、暫く走っていると視野の端に何かが光った。
(あれは何だ……)
視線を向けてみると、光は点滅を繰り返す。
誰かが意図的に行っているのだ。
「春麗。向こうに人がいるようだ。
確認をさせてくれ」
敵であることは考慮しておかなくてはならないが、万が一にも味方ならば、この状況を打破できる。
シュラの言葉に春麗は頷いた。

彼らが光の方向へ行ってみると、そこは大きな木が立っていた。
傍には小さなランプを持った人がいる。
フード付きのマントを頭からすっぽりと被っているので、彼としては森の亡霊に見えてしまった。
「聖闘士さま。早くこちらへ」
その女性は、そのまま大木の樹洞(ウロ)に入った。
聞いたことのない声だが、明らかに向こうは自分のことを聖闘士だと知っている。
シュラは覚悟を決めて女性の後をついてゆく。
暫くして黒い闘衣をまとう者が、大木の前に現れる。
しかし、その木の前を通り過ぎて何処かへ去っていってしまった。

敵の去っていく足音を、息を殺して聞く。
それが遠くになった頃、女性はランプにかけていた布を外した。
小さな光が周囲を照らす。
光量が少ないので薄暗かったが、それでもシュラと春麗には有り難い光だった。
「ありがとうございます」
春麗が頭を下げる。 すると女性は怪我が無くて良かったと言った。
この時、春麗は何かを思い出しかけた。
(あれっ? もしかしてこの人は……)
彼女は女性のマントを掴む。
「この花の香り、もしかしてエウリュディケーさんですか!」
女性が絶句しているのがシュラにも分かった。