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秘計 8

「お願い。この牢を開けて!」
彼女はニンフ達に駆け寄る。
灯りに照らされたその姿はマントをあたまから被っており、僅かに見える肌は痩せた老婆のようだった。
『エウリュディケー。どうしたの』
ニンフ達は仲間の変貌に驚く。
『何故、そんな姿なの』
しかし、彼女はその問いに答えられない。
何故この姿なのか。
杖の力なのか、女神ヘカテの下した罰なのか、彼女にも分からなかったからだ。
そこへニンフの一人が、石の鍵を持って現れた。
『この鍵でしょ。今、開けるわ』
石畳の隙間に鍵を差し込む。
すると、牢そのものが消え去ったのである。
後に残るのは広いだけの空間だった。
外へと向かうエウリュディケーを見送った後、ニンフたちは各々お気に入りの場所へと戻った。

『エウリュディケーを外に出して大丈夫かしら?』
『でも、ヘカテ様の杖が悪用されたら、エウリュディケーはもっと酷いお咎めを受けるわ』

女神ヘカテの側近について案じてはいたが、ある事に彼女たちは気がついた。
『それにしても、よく鍵が見つかったわね』
すると鍵を持ってきたニンフが首を傾げながら答えた。
『それが、仮面の聖闘士様の眠っていた部屋にあったの。
私が様子を見に行ったら、目の前で姿が消えて仮面と鍵を残されたのよ。
きっとエウリュディケーの為に力を貸してくださったのだわ』

その断言に、他のニンフたちもまた簡単に納得したのだった。


(なぜ、動きが止まったのだ……)
敵の奇妙な動きに、シュラはようやっと反撃することが出来た。
しかし、どうやら致命傷とはならなかったらしい。
相手はいったんシュラとの間に距離を取る。
彼は春麗を抱えると、再びその場から離れた。

最初の攻撃から逃れる為に、春麗を抱えて森へと入ったのはいい。
だが、気がつくと他のメンバーとはぐれていた。
偶然なのか、意図的に引き離されたのか。
そこへ現れたのが、問題の敵だったのである。
鬱蒼とした森は姿を隠すのに適している筈なのに、相手は的確に自分たちを追い詰める。
消耗戦になりかかっているので、彼としては早急に敵を排除したかった。
(あれはいったい何なんだ)
敵のまとう闘衣は山羊座の黄金聖衣に似ていたが、黒の聖域にあった物よりも荒々しい。
何よりも、スフルマシュが興奮しているのか、頭の中で分けの分からない言葉がガンガンと響く。
その状態が、彼の動きをいつもよりも鈍らせていた。
そして春麗が一緒に居る為、彼は戦闘にのみ集中することが出来ないのである。
敵は少女にも攻撃を仕掛けようとするのだ。
どう見ても人間性が感じられない。
彼の脳裏に傀儡という言葉が思い浮かんだ。