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秘計 7

暗く冷たい牢獄。
もう既に感覚は麻痺している。

素敵な夢を見た。
恋人が竪琴を奏でる夢。
とても幸福な夢。

そう言えば、あの聖闘士は大事な人を助け出すことが出来たのだろうか。
しかし、それを確認する術は無い。
彼女は再び瞼を閉じた。
そんな沈黙の世界に、複数の足音が響く。
そして彼女の前に幾つかの灯りが現れたのだった。

『エウリュディケー。目を開けて!』
『エウリュディケー。大変よ』
『エウリュディケー。どうしたらいいの』

彼女が目を開けると、慌てた様子のニンフ達が大勢立っていた。
これはただ事ではない。
「どうしたのですか」
聖闘士の少年が目的を果たしたという事なのだろうか。
しかし、ニンフ達が自分の所へ来た理由は予想外のものだった。
『エウリュディケー。誰かがヘカテ様の杖を悪用しているの』
『良くないものを動かしているわ』
『エウリュディケー。古き王が怒っているの』
『傍にいる小さな花が巻き込まれている。 でも、私たちは古き王に近づけない』


ニンフたちは次々と喋る。
どうやら神殿内にある水盤で外の風景を見ていたニンフたちが、その現場を見てしまった事が発端らしい。
しかし、状況だけで肝心なことはよく分からない。
エウリュディケーは目を瞑り意識を集中した。
女神ヘカテの杖の一部は、今自分の体の中に入り込んでいる。
上手くいけば同調する事によって、なにか詳しいことが分かるだろう。
自分の体の中にある力が、色々な映像を紡ぎ出す。
それは自らの分身の記憶だった。
残り二つの力のうち、片方は金の鳥篭に入れられていた。
傍には何故かグリフォンの冥闘士が立っている。
(ここは冥界……?)
急に相手が鳥篭に近づいたので、彼女はその場から離れた。

もう一つの記憶は、何か映像が曖昧だった。
白い霧のみが周囲を取り巻く。
ただ、何者かの声のみ耳に届いた。
『面白いものが手に入ったから、試作品を動かしてみよう』
声の主は、とても楽しそうだった。
だが、次々と聞こえてくる言葉にエウリュディケーは戦慄を覚えた。
遙か昔に滅びた神々に似せて作られた像を、その者は呪術によって動かそうとしているのである。
何よりも恐ろしいのは、その呪術に組み込まれた命令は、動いたら壊れるまで生命を狩り続けよというものだったのだ。

急に目の前の白い霧が晴れる。
目の前に立っていたのは、満身創痍の山羊座の黄金聖闘士。
そしてその後ろには東洋人の少女が立っていた。
(春麗さん!)
彼女が驚いた瞬間、黄金聖闘士が技を繰り出す。
その衝撃で、彼女は元の場所に引き戻されたのだった。