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秘計 6

沙織達が元の世界に帰るために用意された道は真っ直ぐだった。
鬱蒼とした森も岩だらけの道も、ランプの明かりを頼りに彼女たちは歩く。
岩だらけの場所から森へと入ろうとした時、先頭にいたオルフェが立ち止まった。

「……」
道が森の手前で途切れていたのだ。
「右か左に移動して、道を探すしかないようです」
しかし、その道が正しいのかは疑問が残る。
ささやかな悪戯なのか、悪意のある者の仕業なのか。
ただ、ささやかな悪戯で長い間家に戻れなかったという話も無いわけではない。
沙織と闘士達はどう動こうか、しばし悩んでしまった。

不意に春麗が後ろを振り返る。
「どうしたの?」
つられて美穂も来た道のほうを向いた。
「髪飾りを落としちゃったみたい」
髪に付けていた花の飾りが、いつの間にか消えていた。
「どこで落としちゃったのかな……」
引き返そうにも、まだ夜の時間で周辺は暗く、灯りは一つしかない。
「諦めるしかないみたいね」
二人ががっかりしたとき、風の音らしきものが彼女たちの耳に届いた。
「危ない!」
シュラとオルフェが二人を庇う。
聖衣をまとっていた彼らは、身体に複数の衝撃を感じた。
傍で女性の悲鳴が上がる。
「テティス!」
沙織を庇うソレントの前に、テティスが割り込んだのだ。
「私は大丈夫です」
だが、テティスの肩は鋭利な刃物のようなもので切られていた。
そこから血が滲み出る。
「とにかく森へ入りましょう!」
次の攻撃が繰り出される前に身を隠さなくてはならない。
「美穂さん!」
沙織は彼女の腕を掴むと、森へと走り出したのだった。


だが、森は入ってみるとその風景がガラリと変わっていた。
先程までは夜明け前の薄明かりが見せていた鬱蒼とした雰囲気が、中に入ってみると枯れた木ばかりの森なのである。
テティスは素早く自分の身につけていた服の一部を切って、止血をする。
その様子を見ていた美穂が水を探すと言い出したので、その場にいた全員が彼女を引き留めた。
「私は大丈夫ですから、とにかく貴女はオルフェさんから離れないでください」
テティスの言葉に美穂は不安ながらも頷く。
そうして一同がやや落ち着いて周囲を見回すと、人数が二人ほど足りない。
「春麗さんとシュラは?」
沙織が闘士達に尋ねる。
「春麗さんを抱えてあの方が森に入るのを見ましたから、二人は一緒のはずです」
オルフェの返事に、沙織はほっとした。
シュラが一緒ならば、春麗の方は大丈夫なはずである。
彼が少女を見捨てるような行動をする事は、天地がひっくり返ってもあり得なかったからだ。

「春麗さんとシュラさんは大丈夫なの?」
美穂はそれでも心配そうにオルフェに尋ねた。
「シュラという人物は聖域の中でもトップクラスの実力者です。
大丈夫ですよ」
闘士たちにとって問題は、この騒ぎで進むべき方向を見失ってしまった事だった。