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秘計 3

竪琴を奏でる琴座の白銀聖闘士。
春麗はオルフェの様子を見ていると、今の宴の穏やかさを切なく感じた。

「ユリティースに関しては僕が女神ヘカテに尋ねます。
春麗さんはお願いですから関わらないでください。
向こうは絶大な力を持つ太古の女神です。
不敬扱いになって貴女の身に何かあったら、僕はユリティースとの約束も守れなくなります」
宴に参加するとき、彼女はオルフェからそう言われてしまった。
恩人にも等しい精霊の行方を知りたい。
それだけの事なのだが、人間の女性と話をするのとはわけが違うのだ。
春麗も幼いころ、仙女や女神の怒りに触れた人間が酷い目に遭うと言う話は聞いた事があった。
別の生き物に変えられたり、無関係の一族郎党にまで怒りの矛先が向くなど理不尽だと老師に言ったものである。
だが、直接同じ場所に居るということを経験すると、自分の発言で紫龍や老師に害は及ばないかと心配になってしまう。
彼女は自分の無力さに悲しくなってしまった。

「春麗さん」
美穂が心配そうに覗きこむ。
「具合でも悪いの?」
気がつくと他の女性たちも心配そうに春麗を見ていた。
「違うの。大丈夫」
彼女は慌てて笑顔を見せる。
すると美穂が春麗の髪飾りの一つが無い事に気がついた。
春麗もまた周囲を見回す。
すると、宴の席から少し離れた森の手前で、何かが光った。
「あそこまで飛ばされちゃったみたい」
春麗はそれを拾う為に宴の席から離れる。
そして地面から拾い上げたとき、彼女は森の中で何かが立っているように見えた。

「えっ……」
しかし、次の瞬間には、それの姿は何処にもなかった。
「どうしたんだ」
背後からシュラに尋ねられて、彼女は驚きのあまり再び髪飾りを落としてしまう。
今度はシュラが髪飾りを拾い上げた。
「あ……、何でもないです。
今、人が立っていたように見えたのですが、勘違いだったみたい」
「……。 早く戻ったほうがいい」
シュラは春麗の背中を軽く押した。
彼女はそのまま美穂たちの所へ駆けてゆく。
(妙なものが入り込んだな……)
シュラは再び森の方を見た。
ほんの僅かに感じる何者かの気配。
それの正体は残念ながらシュラにも分からなかった。
ただ、それがどんな存在であれ、女神たちや少女たちに害を成そうというのならば倒すのみである。
彼は宴の席へと戻る。
森では何本かの木が枝を揺らした。