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秘計 1

女神ネメシスと別れた後、外で彼らを待っていたのは【黒い翼のケール】たちだった。
絵梨衣とエスメラルダは意識体の筈なのに、実体を持つようになっている。
これは夜の世界への同調が最終段階に入って居ることに他ならないと、彼女たちは少々分かりづらい言葉で説明をする。
彼女らは氷河に外への道を示す。
それは姉神と王妃レダを助けてくれた礼だと、彼女らは言った。

「出口はこっちだ」
そう言って氷河は絵梨衣を抱き抱えたまま走り出す。
「行くぞ。サガ」
氷河と同じようにエスメラルダを抱き抱えたカノンが後に続く。
しかし、サガは気になる事をケール達に尋ねた。
「アイオロスとアイオリアの行方を知らないか?」
その問いに彼女たちは、
『闇ヲ知ル、光ニ帰ル』
とだけ言って、そのまま暗闇の中へ飛び去ってしまう。
「……」
サガは出口の方へ駆け出す。
彼らの背後では女神ニュクスの神殿が、徐々にその姿を闇に溶け込ませ消えてゆく。
後には夜空と淡い光を放つ草原の草花たちが残った。


目映いばかりの閃光。
アイオリアは何が起こったのか分からなかった。
ただ、兄が身を挺して何かから自分を守ってくれたことだけは覚えている。
「兄さん!」
アイオリアは大地に伏している自分の兄の肩を揺すった。
薄暗い場所だというのに、アイオロスの服から血が滲んでいるのはハッキリと見える。
彼は周囲に仲間がいないか見回した。
しかし、自分たち以外に人影は見あたらない。
それ以上に、先程まで居た場所とも思えなかった。

『アイオリア。 その者が本当に兄だと思っているのか!』
どこからか聞こえてくる兄の声に彼は驚く。
「兄さん!」
彼は立ち上がる。
その声は、尚も言葉を続けた。
『お前が兄だと思っている男は、ただの幻だ。 わたしは別の場所に閉じこめられている。
お前は騙されているのだ。
この剣で幻を打ち払って、わたしを助けてくれ』

アイオリアの目の前に、一振りの剣が現れる。
「……」
『アイオリア!』
兄の声に急かされるように、アイオリアは剣を持った。
足下で傷ついている者は、意識が無いのかピクリとも動かない。
アイオリアはそのまま剣を振り下ろした。