「誰もいないな」
あと一時間もすれば夜が明けるという時間に、数名の聖闘士が女神ヘカテの神殿へやって来た。
彼らは全員、聖衣をまとってはおらず普段着だった。
多少なりとも過去の文献を読んだことのある者達から、武装して行くことを止められたからである。
確かに女神ヘカテ側が聖衣を正装と思ってくれなければ、事態はややこしい事になりかねない。
「神殿は消えないでいてくれたようだ」
一応、受け入れてくれたのだろうと、シオンは考える。
彼の足元には血で書かれた紋様が、ランプの光に照らされていた。
「随分、空気が冷えておるのぉ」
童虎は周辺をキョロキョロと見る。
「シオン。わしらは呪術に関しては素人同然じゃ。
ここに見張りを一人か二人置いて、交代で様子を見よう」
「そうだな……」
この場所に女神の宴に参加した者達が戻ってくるのかも、彼ら聖域の者達には分からない。
「童虎。ただ待つというのは辛いな」
そうシオンが呟くと、童虎は彼の肩を軽く叩いた。
「わしは待つのに飽きたところだ。今度は迎えに行ってみぬか」
親友の提案に、シオンは思わず笑ってしまった。
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