INDEX
   

続々・夜行 4

母犬は瞬に産まれたばかりの我が子を見せる。
しかし、瞬が触っても良いかと尋ねると籠ごと一歩下がった。
そして彼を取り囲む他の神獣たちの間にも殺気が走る。
仕方がないので、瞬は小さな生まれたての命を見るだけに止めた。

籠の中の子犬たちは懸命に鳴き声をあげて、母親を呼ぶ。
しばらくして彼女は再び籠をくわえ姿をを消した。
周囲から神獣たちも次々と姿を消す。
そして何処からか松明を口にくわえた神獣が、瞬の前にやって来た。
それは瞬の方を振り返りながら歩き始める。
「ありがとうございます」
彼は母犬の去っていた方向に向かって一礼すると、その神獣の後をついていった。

案内役の獣は、迷うことなく瞬を導く。
そして随分と岩だらけの場所を歩いた後、獣は大地に松明を置いた。
鼻で松明を瞬の方へ寄せ、首を振って岩の間を通れというような仕草をする。
「ここからは僕だけでジュネさんを連れて行かなくちゃいけないんだね。
本当に色々とありがとう」
彼はジュネを肩に担ぐと松明を拾った。
松明は火が点いている様にみえたが、実際に持ってみると炎から熱は感じられない。
不思議ではあったが、疑問に思って立ち止まる時間はない。
彼は慎重に狭い岩の間を進む。
それは何処までも続いているようだったが、徐々に木の根が岩の隙間から見え始めた。
(木の多い場所なのか?)
自分の使った入口と案内された出口が違うのだろう。
聖域からどれ程離れているのかは分からないが、地上に出たのなら聖域に戻る算段は何とかつく。
(ジュネさん。起きたらビックリするかな)
色々なことを話したい。 自分の気持ちを伝えたい。
そんなことを考えているうちに、彼は地上に出た。


そこは真っ暗な森の中だった。
手に持っている松明が、夜の木々を照らす。
(あれっ??)
彼は何となく嫌な予感がした。
そして森を歩いて行くうちに、その予感は的中する。

「アンドロメダ。何をしに来た!」
パピヨンのミューとアウラウネのクィーンが彼の前に現れたのである。
女神ヘカテの神獣は、瞬をハインシュタインの森へ連れて来たのだ。
(何でもないところよりも面倒な事になりそうだなぁ)
瞬は諦めて、手に持っていた松明をミューに渡したのだった。