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続々・夜行 3

王妃はエスメラルダに、絵梨衣の隣に座るよう言う。
彼女はその通りに腰を下ろした。
『ヘレネにも慕う方がいるのですか?』
エスメラルダは質問に戸惑い、絵梨衣の方を見る。
「大丈夫」
彼女は励ますように、エスメラルダの手を握った。
『ヘレネ……?』
「あの、好きな人がいます。
でも……私、また一輝に迷惑をかけそうで……」
エスメラルダは胸の内の苦しさを王妃に告げる。
「私、一輝に何もしてあげられない。
そう思ったら、どうして良いのかわからないんです」
あとは嗚咽のみで、言葉が続かない。
そんなエスメラルダを、王妃は優しく抱きしめた。
『貴女も恋をする年齢になったのですね。
カストールとポリュデウケースが過保護だったから、貴女達と心を通わす殿方が出てきてくれるか心配でした』

当時のスパルタ王家の事情を暴露する王妃に、サガとカノンは何か耳が痛かった。
『クリュタイムネストラー。ヘレネ』
スパルタの王妃は絵梨衣をも引き寄せて、二人の少女を両手で抱き抱える。
『貴女達なら大丈夫です。
心を寄せた方と一緒になって、幸せに暮らしなさい。
いいですね。母との約束ですよ』

エスメラルダは女性の言葉の優しさに泣きだしてしまった。
涙を流す王妃レダの周囲に光が集まる。
そしてその姿が振れると、別の女性へと変化した。

女神ネメシスの出現。
彼女は少女たちの涙を優しく拭く。
「それでは地上へ戻ります」
氷河の問いかけに女神ネメシスは頷いた。
そして絵梨衣を氷河が抱き抱える。
エスメラルダはカノンが連れて行こうとした。
彼女は立ち上がる途中で、女神の方を向く。
「あの……。また会えますか」
その言葉に女神は驚いたようだが、嬉しそうに頷いたのだった。

部屋に小さな光が現れ始める。
そして天井や壁が透き通り始めたのだった。