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続・夜行 6

女神キュベレーが、いきなり床に呪術の紋様を書いた。
そして水鏡のような床に映し出された映像には、ジュネを抱きかかえて女神ヘカテの神殿を脱出したアンドロメダ座の聖闘士の姿が見える。
『この子が恋敵のようね』
沙織はその様子をいきなり見せられて、言葉を失ってしまう。
『うかうかしていると、お前のお嫁さんはこの者に取られてしまうわね』
女神キュベレーの言葉に、獅子は踵を返して闇の中へと消えていった。
「あの者から【地の獅子】を奪えると思っているのですか」
沙織としては不用意に太古の女神と事を構えるのは避けたいが、相手は挑発し続けている。
そして、こんな状態だというのに女神ヘカテは何も言わない。
沙織としては女神キュベレーの行動よりも、女神ヘカテの沈黙の方が怖かった。
聖域は知らぬうちにあらゆる女神達を敵に回していたのだろうか。
とにかく短慮な振る舞いだけは避けなくてはならない。
沙織は再び瞬の様子を見た。


とにかく神殿から離れる。
その一念だけで、瞬は荒れた大地をひた走った。
「……」
不意にジュネが目を覚ましそうな気配があったので、彼は立ち止まると岩の影に隠れる。
「ジュネさん……?」
しかし、彼女は唇を少し動かしただけだった。
「……」
最後に会ったときは泣きそうな顔をしていた姉弟子が、今はエリシオンのニンフ達のように綺麗な女性になっている。
瞬は急に心臓がドキドキしてきた。
(あっ。仮面を忘れた……)
しかし、今更思い出したところで取りには戻れない。
彼はジュネの眠っている顔を再び見た。
「えっと……」
何だか照れてしまって、彼女の顔を見続けられない。
とにかくジュネが目を覚ます様子がないので、瞬は再び場所を移動する事にした。
その時、手に持っていた袋を地面に落としてしまう。
「うわっ。無くしたら大変だ」
神妃ヘラがアンドロメダ座の聖闘士にくれたというのなら、たとえ過去の経緯の当事者でなくても大事にしないとならない。
瞬は中に入っている者が壊れていないか確認する。
「これって……」
それは綺麗な輝きを放つ大小一組の指輪だった。

とにかく指輪がなくならないようにすると、瞬は再びジュネを抱きかかえた。
そこへ黄金の光が現れる。
「!」
その光は徐々に動物の形を作ると、鎧をまとった獅子の姿へと変貌を遂げた。
瞬は何事かと思ったが、相手の獅子はどう見ても自分に対して良い感情を持ってはいない。
眼差しが明らかに敵意に満ちている。
「……」
闘わねばと思うが、女神ヘカテの管轄地で騒ぎを起こす事に躊躇いがないわけではない。
「ジュネさん。絶対に守ってみせるよ」
覚悟を決めてネビュラチェーンを動かそうとしたその瞬間、一頭の獣の遠吠えが周辺に響いたのだった。