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続・夜行 5

階段は壁自身が淡い光を放っており、瞬は足を踏み外す事なく一番下の部屋へと到着する。
部屋の扉は彼が触った途端に、呪術のような紋様を浮かび上がらせて消えてしまった。
「ジュネさん!」
部屋の中央には、仮面をした女性が台の上で横になっていた。
ニンフたちと同じような服を着せられて、髪にも綺麗な髪飾りなどが付いている。
瞬は彼女を抱き抱え仮面を外した。

「ジュネさん。僕だよ」
頬を軽く叩いて姉弟子を起こそうとしたが、彼女はピクリとも動かない。
「ジュネさん!」
『騒ぐな。その者は眠っているだけだ。
いずれ目覚める。 冷静になれ』

「……」
ヒュプノスの一喝で、彼は改めてジュネの様子を見た。
規則正しい呼吸。体も温かかった。
ヒュプノスは瞬が外した女性聖闘士用の仮面を手に取る。
『どうやらニンフたちは仮面が外せなくて、レーテ(忘却)の水を飲ませられなかったらしい。
強運な奴だ』

そう言われて瞬が部屋の様子を見回すと、確かに壺のようなものがたくさん置かれていた。
全部がレーテの水なのかは判断がつかないが、とにかく彼女の命と記憶を仮面は守ってくれていたのである。
『アンドロメダ。早くその者を連れて、この神殿を出ろ。
とにかく真っ直ぐ進むと出口が出現する。後ろは振り返るな』

眠りの神の言葉に瞬は頷いた。
ジュネを抱きかかえて彼は立ち上がる。
『それから神妃ヘラ様がアンドロメダ座に渡して欲しいと言われたものがある。
手を出せ』

ヒュプノスが取り出したのは、小さな巾着袋だった。
「もしかして天上界の?」
『何代前かは不明だが、アンドロメダ座の聖闘士に巫女を助けて貰ったお礼だそうだ』
受け取った袋の中で何かが軽やかな金属音を響かせる。
『いいな。とにかく神殿から少しでも遠くに離れろ』
眠りの神は出口の方を指し示す。
瞬は、
「ありがとう」
と言って、急な階段を風のような早さで駆け上がった。
瞬く間にその気配は神殿内部から消える。

『まったく、エリスは何をやっているんだ』
ヒュプノスはそう呟いた後、傍にあった壺の水を少しだけライオンの子どもの口に注ぎこんだのだった。