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続・夜行 3

瞬は仏頂面のタナトスがやって来たとき、どんな事件が起こったのかと身構えた。
だが、話をを聞いてみると死の神が不機嫌だったのは、相手があっさりと帰ってしまったことらしい。
ほとんど八つ当たりとしか言いようが無い。
そして死の神が不機嫌なのには、もう一つ理由があった。
『アンドロメダ。 ニンフたちが変なものを持ち込んだ。
探し出せ』

主語の分からない事を言われて、いったい何の事かと彼は尋ねる。
「ニンフさんたちが持ち込んだのなら、彼女たちが何とかするんじゃないのですか?」
『あれらは保護し可愛がるが、ここは地上の生き物が長く居られる場所ではない』
そしてタナトスは自分が死を司るので、用もなく地上の生き物に近付く気はないと言う。
(……)
相手の言っていることが分かるような分からないような、とにかく神殿内部を堂々と歩けるのだからアンドロメダ座の聖闘士は動物探しを了承した。
『では、ネコの子供を見つけたら捕まえておけ。ニンフたちに余計なことは聞くな。
お前の神聖衣は力が強すぎる。
あれらはお前に近付かれ予想外の質問をされただけで、緊張し倒れ病んでしまう』

タナトスの言葉に、瞬は言葉を失ってしまった。

神殿の内部を色々と見て回る。
瞬の目に朧げに見えるニンフ達もまたタナトスの言うネコの子供を探しているが、地上の生き物の姿はようとして知れなかった。
そんな中、瞬はニンフたちが自分を近づけない部屋が2ヶ所あることに気がついた。
それらの場所は既に調べたと言われて、彼は入れないのである。
ただ、彼女らはアンドロメダの神聖衣に触れることができない為、瞬の方が彼女たちの懇願を聞き届けるような状態だった。
(強行突破したら、ニンフさん達に怪我をさせかねないな……)
ただでさえエリシオンを崩壊させた原因は自分たちにもある。
そう考えると、ニンフたちを困らせるのは正直言ってやりたくはない。
そんな事を考えながら神殿内の廊下を歩いていると、ある場所で不意に壁の模様が変に切れていることに気がついた。
石で作られたその場所が、天井から床へと一直線に溝が出来ているのである。
彼はその前で立ち止まる。
その隙間から時々弱い風が吹いていた。
(奥に何か空間があるのか?)
壁に手を触れようとした時、ニンフたちがネコの子供を見つけたと騒いだ。
「何処ですか!」
瞬は周囲を確認すると、彼女たちが騒ぐ方へ駆けだす。
彼は、謎の女性が言った場所があそこなのだと直感した。


結局、問題の生き物が発見されたのはニンフたちが騒いだ場所ではなかった。
眠りの神ヒュプノスが神殿の入り口で捕まえたのである。
既に問題の獣は彼の腕の中で満足そうに眠っていた。
(どうみてもライオンの子供に見えるけど……)
ネコ科だという一まとめなのだろうか。
神々の種族に対する線引きは、瞬にとって理解の範囲を超えていた。
ただ、光の加減で獅子の子は透けて見える。
『母親から生まれる前の命だ。実体でないのは当たり前だろう』
どう当たり前でないのか瞬には想像がつかなかったが、彼はそのまま納得することにした。