早くこの場から離れたい。
しかし、足がすくむ。
絵梨衣が暗い部屋の中で身動きがとれなくなっていると、突然、建物全体が揺れる。
彼女はその場にしゃがみ込んだまま、頭を両手で抱えた。
周囲の壁からは、ヒビの入る音が聞こえてくる。
早く逃げなければと思いつつも、恐怖と疲労感で動くことができない。
(氷河さん。氷河さん!)
恋人の名を繰り返し口にしたとき、誰かが絵梨衣の体を抱き上げた。
「えっ……」
いったい誰なのかと、絵梨衣は相手の顔と部屋の様子を見る。
すると、先程まで縛られていた人物の姿は鎖ごと無かった。
「とにかく大人しくしていてくれ」
相手はそう言って素早く部屋から出る。
「……カノンさん?」
「違う。だが敵ではない」
この返事に絵梨衣は、どう信じたらいいのか判断がつかなかった。
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