INDEX
   

夜行 7

そして二人の闘士の競演が終わり、辺りに静けさが戻る。
次の瞬間、 女神ヘカテが心を動かされたという演奏に、他の女神たちも喝采を送り褒めたたえた。
彼らは女神ヘカテのリクエストに見事応えたのである。
これをきっかけに、宴はより一層盛り上がりをみせた。

ムーサ達が曲を奏でている時、カリスたちが楽しそうに踊る。
時々、美穂や春麗達が彼女らに誘われてぎこちなく踊ったりしていたが、それらを可愛らしいと海の女神達が口々に噂する。
これらはオルフェとソレントには、光の棒が色々と細かく動いているように見えた。
空間に流れる音楽は竪琴や笛以外の音色もあり、彼らにも自分たちの演奏が評価されたのだと分かる。
「どうも、あの方たちは各自で何かしらの楽器を持ってこられたようです」
テティスの説明に、彼らは会場の様子が見れないのが残念に思えた。

そんな盛り上がる宴を見ながらも、沙織は警戒を解くことが出来ずにいた。
神話の時代より強大な力を持つ女神ヘカテ。
預言の力を持ちオリュンポス神族にとっては重要な後見者である女神ニュクス。
そして太古より戦の守護者であり、生き物たちの保護者として多方面に影響力を持つ女神キュベレー。
その三柱の女神達が同じ宴にいる。
特にキュベレーはギガントマキアの時に援護を拒絶した分、何を言い出すか分からない。
それでも、神妃ヘラなど天上界の中枢にいる女神達が来なかったのは救いだった。
(ただでさえ海の女神達が美穂さんを意識している……)
美穂を連れて行かれたら、今度は二度と会わせて貰えないかもしれない。
彼女はそんな予感がした。

ひとしきり演奏が終わった後、今度は彼らの素晴らしい演奏に対して海の女神達が歌でお返しをしたいという。
元々海の女神達の歌声は素晴らしいが、場合によっては幻覚や催眠効果の力を発揮する。
(ソレントとテティスが惑わされなければ……)
これが沙織にとって最後の砦だった。
そして海の女神達の歌が始まる。
だが、沙織はその様子を見ることは叶わなかった。
別の場所に瞬間移動をさせられてしまったのである。

「あれっ。沙織お嬢さんは?」
美穂は沙織の姿が見えなくなった事に気がついた。
だが、立ち上がろうとすると女性たちが心配ないと言って、その場に居させようとする。
「ミホさん。あの方なら大丈夫です」
テティスもまた彼女を引き止める。
美穂から目を離さないようにと、カノンから言われていたからである。
そして沙織に至っては、自分がどうなろうとも美穂を聖域に連れ帰って欲しいとまで言われている。
しかし、美穂が不安げに何度も沙織の姿を探しているのも可哀想な気がする。
ほんのちょっとなら大丈夫かと彼女は考えた。
「では、私が様子を見に行きます」
そう言ってテティスは立ち上がる。
この時、周りにいた女性たちは特に引き止めようとはしなかった。