夜の宴は華やかに開幕する。 女神たちが何を言っているのか分からない以上、オルフェとソレントは女神達の言葉を理解出来ているテティスに小声で通訳をして貰った。 彼女らは次々と聞きたいイメージの曲をリクエストをする。 そのつど、二人の闘士は美しい音色を奏でた。 それを繰り返しているうちに、とある女神が二人の闘士に合奏をリクエストした。 「お二人の競演を女神ヘカテが聴きたいそうです」 テティスの言葉に彼らは互いに顔を見合わせる。 「ソレントさん。 申し訳ないが、僕は"あの曲"以外は奏でたくはない」 オルフェの言葉の意味を、セイレーンの海将軍は素早く察した。 彼は恋人の好きだった曲を演奏したいと言っているのである。 (いままで一度も奏でなかったのは、この時の為だったみたいですね……) 場合によっては女神ヘカテの不興を買うかもしれないが、それはそれで自分の演奏が至らなかっただけの話である。 ソレントはあっさりと納得すると、オルフェの願望を了承した。 「……」 あまりにも簡単に受け入れられたので、逆にオルフェの方が驚いてしまう。 「何を驚いているのですか」 冥界のオルクスにて、優しい笑みを浮かべていた精霊。 あの時の彼女の様子を、琴座の聖闘士に話してみよう。 ソレントはようやく覚悟を決めたのだった。 |
暗い世界の中で、弱々しい光を放つ草花。 夜の世界というのは暗黒だけの世界なのかと、アイオリアは思っていた。 しかし、実際は夜空は美しく輝き仄かに周辺の様子が分かるくらいの光が存在していた。 真っ暗な空間にそびえる山の中腹には、大きな横穴がある。 だが、建物らしきものは見当たらない。 「兄さん。こんな所に神殿があるのか?」 弟の問いにアイオロスは周囲を見回しながら答えた。 「神殿は目の前にある。 ただ、侵入者を寄せつけないようにする為に、こういう風景の中に隠されているだけだ」 彼は傍にある大きな岩に触れた。 「……とにかくエリイさんを探すにしても、女神ネメシスの協力は必要不可欠だ。 ここは聖闘士が動き回ったところで、全てが見れる場所じゃない」 そう言いながらアイオロスは岩を調べ始める。 アイオリアは岩に何かがあるのかと思い近づく。 (黒い石……板?) 彼の前には、どう見ても加工物のような黒光りする板が埋め込まれていた。 (これは何だ?) 手を伸ばし触ってみる、 それはやはり不自然なまでに表面が滑らかだった。 『強き光。この夜の世界に何の用だ』 アイオリアの脳に直接誰かの声が響いた。 その瞬間、彼は身体が痺れ高のように動けなくなる。 この時兄の声が聞こえたような気がした。 だが、彼はその方向を向くことが出来なかった。 「アイオリア!」 黒い石版から眩しいまでの光が溢れだす。 そしてその勢いは、周辺の岩を砕き大地を震わせたのだった。 |