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夜行 4

「なんでアイオリアがここに居るんだ?」
牢獄のような空間から助け出された彼の問いは、正直ではあるが間抜けでもあった。
「何でって、俺は……」
アイオリアはどう説明しようかと言葉に詰まる。
色々と伝えたいことが有りすぎて、逆に言葉に詰まってしまった。
そんな兄弟たちの間にカノンが割って入る。
「アイオロス。全部喋ってもらうぞ。
奴とお前は何をしにここへ来たんだ」
それは迂闊に隠し事をすれば必殺技を放つという目つきだった。
サガもまた女神ニュクスに会いに行くとカノンに伝えていたのだ。
アイオロスはどうしようかと迷ったが、そんな態度にカノンとキグナスの聖闘士の表情が一段と険しくなる。
彼は覚悟を決めた。

「……女神ニュクスの神殿には行ったのか?」
「まだだ。それ以前に神殿に辿り着けない。
ここに招待されたはずのシュラは見つからないし、ケールたちの助言が無ければこの場所すら見つけられなかったという状態だ」
実際は女神ニュクスの娘たちである【黒い翼のケール】たちですら、断片的なことしか言ってはくれなかった。
これは相手が意地悪をしているのではなく、どちらかというと彼女たちの使う言葉が古いという方が近い。
ただ、白鳥座の聖衣に運命の女神たちとのつながりがあったお蔭なのか、彼にのみ何となく言っていることが理解できたのである。
「それでも向こうは、アイオロスを【賢者の弟子】としか言わなかった」
その為、氷河達は牢獄を壊すまで、閉じ込められているのがアイオロスとは思わなかったのである。

「……兄さん。いったい何があったんだ」
弟が追いかけてきた以上、関わるなといっても無駄な話である。
アイオロスは三人の闘士に付いて来いという仕種をした。
「王妃レダの怒りを抑えない事には、聖域は常に滅びの危機に立たされる」
その言葉にカノンの心臓が大きく脈打った。

神話の時代、二人の娘を失ったスパルタの王妃は女神ネメシスと同化してしまう。
そんな彼女の怒りは神話の時代から消えておらず、女神の息子であり亡くなった少女たちの兄であるポリュデウケースは滅びの使者として聖域に暗い影を落とし続けていた。
賢者ケイローンは弟子の暴走を危惧していた。
だが、本当に気をつけなければならなかったのは、人間であった王妃レダの方だったのである。
彼女は双子座の黄金聖闘士が聖域に出現するたびに、怒り、嘆く。
そして少しずつ自分を失っていった。
女神ネメシスは自分の半身が心を壊すのを抑えるべく、眠りにつく。
王妃の方に限界が近付いてきたからである。
しかし、一度同化した心と体は離れる兆しを見せない。
賢者は射手座の黄金聖闘士と接触を試みた。
地上の守護を担う女神アテナへの危害は、何としても防がなくてはならなかったからだ。