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夜行 1

テティスは周囲を警戒しながら、美穂と春麗の後ろを歩く。
(彼女が身につけているのは、あの首飾りでは?)
日本人の少女の首を飾る青い宝石は、自分が海皇ポセイドンから女神アテナに渡すよう言われたもののような気がするのだが周辺の飾りが違っていた。
(女神アテナが同じような物をもっていた?
でも、やっぱりあの宝石のような気がするけど……)
しかし同じ宝石ならば、なぜ女神は海の神より渡された物に手を加えて、日本人の少女に使わせているのだろうか?
テティスは女神アテナの考えていることが分からずにいた。
しかし、首飾りが美穂という少女に似合っていると思った。

霧の向こうには不思議な世界がある。
そんな物語を、学園の子供達に読み聞かせたことを美穂は思い出す。
(でも、何というか……)
実際に案内された場所に辿り着くには霧を中の森を越え洞窟を通り抜けるという、やや肉体労働を伴っていた。
おかげで目的地である神殿にたどり着いたときには少々息が切れていた。
「春麗さんは平気なの?」
思わず隣にいた友人に話しかける。
すると相手は
「いつも山道を使っているから大丈夫よ」
とにっこり笑う。
美穂は沙織の方をちらりと見た。
深窓の令嬢であるはずの沙織も平気な顔をしているというのが、美穂にとっては意外だった。
(身体を鍛えているのかしら?)
沙織の別の面を見たようで、彼女は何となく落ち着かなくなってしまった。

天井の作られていない神殿の壁には、幾つもの光が煌めく。
それは非常に柔らかく輝き、時には不思議な色を見せていた。
「みなさん、お揃いですね」
沙織の言葉にオルフェとソレントは緊張する。
彼らの目に映るのは、廃墟のような神殿跡にいくつも立つ光の柱だった。
だが、それからは強大な力を感じる。
「綺麗な方たち……」
「女優さん達なのかな?」
春麗と美穂の会話に、彼らはこの場の様子が少女達には複数の女性達が居るように見えているのだと気付いた。
「太古の女神にして『若者の養育者(クロートロポス)』であらせられるヘカテ様。
並びに、先の闘いにおいて闘士達を信頼し力を託してくださった皆様方。
この度、この私を宴にお誘いくださいまして、ありがとうございます」
沙織の言葉に、相手は柔らかな光を放つ。
やはり二人の男性には女神の姿は見えない。
ただ、彼らの耳に美しい音色が届く。
どうやら相手の女神が何かを言っているようだった。