部屋の扉はどの様な仕掛けが施されているのか、少しも動かない。 瞬は仕方なくタナトスが開けるのを待つ事にした。 周囲をぐるりと見てみると、部屋の隅には一ヶ所だけ変な位置に置かれた石。 それに触ってみると、別の場所がいきなり開いたのである。 そこには下に続く階段があった。 「……」 どうしようかと一瞬迷ったが、彼は意を決して下りる。 タナトスが烈火のごとく怒る姿は想像がついたが、このチャンスを逃せば自分が後悔する事が分かりきっていたからだ。 そして実際に階段下の空間に辿り着くと、そこは誰も居ない事を望みたくなるような雰囲気があった。 彼は静かに部屋の様子を見て回る。 (牢屋?) そのわりには格子の幅が大きいので、すぐに人が出られそうだった。 少なくともこの空間を牢として使うなら、人間よりも大きな生き物専用に思える。 (まずい所に来たかな……) ここで戦闘になれば、少なくとも相手は人間以外の可能性が高い。 それでも全部を見る為に、彼は奥へと進んだ。 そして一番奥の場所で、瞬は唯一の囚われ人に声をかけられたのだった。 「あなたは誰ですか?」 突然聞こえてきた女性の声に、瞬は驚いてしまう。 「誰か居るのですか!」 彼は牢の中に入ろうとしたが、反対に中の女性から止められた。 「入ってはいけません。ここの床には仕掛けが施されています。 それに私は意味があってここにいます。 構わないでください」 そう教えられて、瞬は立ち止まる。 中は真っ暗なので、床の仕掛けどころか人の姿も分からない状態だった。 それに人が居るという気配もない。 声だけがその場に響いた。 瞬の脳裏に冥界の花畑で出会った女性が思い出される。 しかし、今いる人物の声は聞いたことが無かった。 「あの、ここに聖闘士が閉じこめられていたりしませんか。 知っていたら教えてください」 それでも瞬には何かの助けに思えた。 だが、女性から返事は無い。 「僕の大切なひとなんです。お願いします」 しばらくの沈黙の後、暗闇のなかから再び声がした。 「聖闘士様。すぐに元の部屋に戻られましたら、ニンフたちの様子に注意を払ってください。 彼女たちは貴方様に対して、ある場所を知られないように動くはずです。 部屋ではありません。場所です。 とにかくそこを見つけてください」 その言葉に、彼は相手はただの囚われ人では無いのだと思った。 「あの……、貴女は……」 「さぁ、早くお戻りください。 ニンフたちに不信に思われたら元も子もありません」 急きたてられて、瞬は礼もそこそこに部屋へ戻った。 スイッチでもある石を元に戻すと、先程まであった下に続く入り口が再び閉ざされる。 その直後、部屋の扉が勢いよく開きタナトスが入ってきた。 思いっきり不機嫌な様子に、瞬は部屋の温度が下がったように感じたのだった。 |