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招待 7

『もしここが母上の管轄地なら問答無用で処分するところだ。
運のいい奴め』

タナトスはそう言いながら瞬を神殿へ連れていく。
理由はただ一つ。
瞬の神聖衣が未だに冥王の隠れ兜の力を保持していたので、迂闊に周辺を歩かれると彼は平然と禁忌の場所にも入りかねない。
そっちの方がタナトスには非常に警戒すべきことであった。

「ここは誰の神殿なんだ?」
『ヘカテ様の神殿だ。今はご不在だがな』
その名前に瞬は驚いた。
(もしかして、何処かにジュネさんが居るかもしれない!)
ジュネとは女神ヘカテの神殿で別れたと争いの女神は言っていた。
(今、この場でタナトスを巻いて建物の中を探せば……)
『この神殿内部を探るつもりならば、今この場で貴様を処分するぞ』
タナトスのタイミングの良い牽制に、瞬は心を読まれたのかと思った。
『……この空間で起こる全てのことについては、ヘカテ様に決定権がある。
おまえは大人しくしていろ』

「……」
『まったく、留守番など頼まれるのではなかった』
タナトスは忌ま忌ましそうに言う。
その時、何処からか奇妙な重い音が聞こえてきた。
瞬にはそれが何なのか見当かつかない。
だが、タナトスには判っているようだった。
『こんな時に嫌な奴が来た。 おおかた、ニンフたちを口説きに来たのだろう。
貴様はこの部屋に隠れていろ。奴が人間に気がつくと面倒だ』

タナトスはそう言って彼を近くの部屋に放り込む。
「うわっ」
そして入口の扉は勢いよく閉められたのだった。

(本当に面倒だ……)
タナトスはそう考えながら神殿の外へ出た。
母神であるニュクスの古い友である女神ヘカテの依頼でなければ、留守番などというつまらない事はやりたくはなかった。
しかし、先の聖戦でエリュシオンから離れなくてはならなかったニンフ達は、今は女神ヘカテの元に身を寄せている。
そんな彼女らは美しい容姿をしており、オリュンポス神族の中には女好きが多かった。
とにかく主(あるじ)である女神ヘカテが不在の時に、ニンフたちが連れ去られると言う事態は避けなくてはならない。
(さっさと片を付けるか)
既に死の神には、相手を説得をする気は微塵にも無かった。