『もしここが母上の管轄地なら問答無用で処分するところだ。 運のいい奴め』 タナトスはそう言いながら瞬を神殿へ連れていく。 理由はただ一つ。 瞬の神聖衣が未だに冥王の隠れ兜の力を保持していたので、迂闊に周辺を歩かれると彼は平然と禁忌の場所にも入りかねない。 そっちの方がタナトスには非常に警戒すべきことであった。 「ここは誰の神殿なんだ?」 『ヘカテ様の神殿だ。今はご不在だがな』 その名前に瞬は驚いた。 (もしかして、何処かにジュネさんが居るかもしれない!) ジュネとは女神ヘカテの神殿で別れたと争いの女神は言っていた。 (今、この場でタナトスを巻いて建物の中を探せば……) 『この神殿内部を探るつもりならば、今この場で貴様を処分するぞ』 タナトスのタイミングの良い牽制に、瞬は心を読まれたのかと思った。 『……この空間で起こる全てのことについては、ヘカテ様に決定権がある。 おまえは大人しくしていろ』 「……」 『まったく、留守番など頼まれるのではなかった』 タナトスは忌ま忌ましそうに言う。 その時、何処からか奇妙な重い音が聞こえてきた。 瞬にはそれが何なのか見当かつかない。 だが、タナトスには判っているようだった。 『こんな時に嫌な奴が来た。 おおかた、ニンフたちを口説きに来たのだろう。 貴様はこの部屋に隠れていろ。奴が人間に気がつくと面倒だ』 タナトスはそう言って彼を近くの部屋に放り込む。 「うわっ」 そして入口の扉は勢いよく閉められたのだった。 |
(本当に面倒だ……) |