「ここが入り口だ」 湖から少し離れたところにある横穴にバイアンは入った。 彼自身が穴をあけたためか、周辺の岩が破壊されて間もない。 「バイアンは何故、ここを知っているんだ」 アイザックは思わず尋ねた。 他の闘士達が誰も見つけられなかった場所である。 たった一人だけが知っていたというのは、何か出来すぎな気がしてならない。 しかし、バイアンの返事は簡単だった。 「あのギガントマキアの時、あの湖だけが変だった」 「どういう風に?」 「あの湖は一カ所だけ下から上に水が流れた。 多分、何か細工がされていて、意図的に水が注ぎ込まれるように作られているのだろう」 それは雨の降っていたとき限定の現象なので、晴れている今の時間にはわからなくても仕方が無い。 バイアンはどんどんと奥へと進む。 洞窟の周辺には氷の壁が見え始めた。 「……」 カノンはその様子に、何かが引っ掛かった。 「ここは、最初に見つけた遺跡の道に似ているな」 アイアコスもまた自分が気がついたことを口にした。 二人の少女が閉じ込められていた遺跡。 あそこは崩れたはずだが、誰もそれを確認してはいない。 そして二人の予想は現実となって目の前に現れたのだった。 |
何も無い円形の遺跡。 本当に何も無いのだが、部屋自体は明らかに計算されて作られている。 その部屋に入った時、シュラの心臓が大きく脈打った。 (この感覚は……) 聖衣の中で眠る異形の神が目覚めようとしているのだろうか。 (部屋に何があるのだ) 彼は慎重に歩く。 そしてとある一点にきた時、いきなり彼の足元が光った。 「なにぃ!」 シュラの黄金聖衣が輝きだし、それに呼応するかのように床が光る。 (スフルマシュの力に反応している) それがいったいどういう意味を持つのかは、シュラ自身にもわからない。 壁には無数の紋様が浮かび上がる。 部屋に充満する力は徐々に強まり、シュラ以外の闘士たちは壁に叩きつけられた。 圧倒的な力だった。 |
闇の中でスフルマシュが嗤う |
「門が開く!」 シュラがそう叫んだ瞬間、壁の紋様は強く光った。 「女神ニュクスの守護空間と繋がるぞ」 彼の言葉に誰もが驚く。 「なんだと!」 「くっ……。どうやら招待されたらしい」 その言葉を残して、彼の体は光に飲み込まれる。 「シュラ!」 しかしカノンが名を呼んだところで、本人の姿は何処にも無かった。 |