目的の祠に辿り着くには洞窟にある迷路のような場所を通り抜けないとならない。 老婦人や女官達は、瞬にそう説明した。 ところがいくら歩いても道は一本だった。 彼は目的の場所そのものを間違えたのかと不安になる。 (でも、確かにこの場所の筈だ) 他に該当する場所はなかったのだから……。 瞬は手に持っている籠を見た。 力ある女神達へのお供え物が入っている。 いつか出て来るであろう分岐点を見逃さないように、彼は慎重に歩いた。 闇は徐々に深くなる。 (足下も見えにくくなってきたな) そんなことを考えた瞬間、彼は足を踏み外した。 それは崖から落ちるというものではなく、いきなり地面が消失していたのである。 |
オルフェの演奏の後、セイレーンの海将軍が優しく可愛らしい曲を奏でる。 世界中を旅しているソレントが、各地の曲を少女達に聞かせていたのである。 「世界中を旅していると、色々な国の子供達が自分たちの国の音楽を教えてくれるのです」 それは楽しいものもあれば切なく悲しい逸話付きのものもあるなど多岐にわたっていた。 「今度は何処の国の曲にしましょうか」 彼がそう言った時、床に描かれている紋様に光が走った。 「!」 そして床から発せられた光から、灯りを持った女性が現れる。 かの女神ヘカテの側近を知る者たちは彼女なのではと思ったが、その女性は別人だった。 「すごい舞台装置……」 美穂の呟きに、沙織はほっとした。 女性は沙織達に向かって会釈をすると再び光の中へ消えていく。 その様子に美穂は目を丸くした。 しかし、周囲を見ると春麗以外は驚いてはいなかった。 「彼女が案内をしてくれるそうです」 沙織は女神ニュクスの杖を持つと立ち上がる。 「美穂さんに春麗さん。用意はいいですか」 何の不思議なことも無い。 だから、疑問も恐れも持つ必要はない。 そんな沙織の様子に、美穂は頷いた。 (とにかく彼女に不信感を持たれてはいけない) 聖域の守護女神にとって、それは最優先すべき事柄だった。 |