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続々・親友 7

沙織達が女神ヘカテの神殿へ行った後、聖域ではちょっとした出来事が発生した。

社殿の一室では静かに時が過ぎようとしていた。
瞬はその部屋からなるべく出るなと言われてしまう。
女神ヘスティアの神殿で何かあったときの要員として、待機させられていたのである。
一応、デスマスクが詳しい情報を寄越すまでは所在を明確にして置かなくてはならないとまで言われてしまい、いつまでこの状態なのかは見当が付かない。
(老師からは早めに改善すると言われたけど……)
女神ヘスティアの神殿については、聖域の女官達の誰かが知っている。
でも、彼女らは女性の聖闘士にしかそのことを伝えない。 守る立場ゆえに相手の信頼を損なわないように努める。
瞬は自分の役割の重さを実感していた。
彼が思わず溜息をついたとき、ドアがノックされた。

「瞬さん。ちょっといいですか?」
入ってきたのは星華だった。
「星矢に何かありましたか!」
彼が一番確率の高そうな問題を口にすると、星華の方がビックリしてしまった。
「……星矢ったら、もしかして皆さんに迷惑ばかり掛けていましたか?」
「いいえ、そんなことありません。
ところで僕に何か?」
彼は慌てて話を逸らす。
星華もまた、それ以上弟の話を深く追求することはしなかった。
「あの……、頼みたいことがあるのですが、一緒に来て貰うことは出来ませんか?」
「えっ?
それなら星矢の方がいいのでは?」
ところが星華は首を横に振った。
詳しい事情を聞いてみると、老婦人が女神の宴について誰からか聞いたらしく、宴が無事に終わるようお願しに行きたいと言って家から出ようとするらしい。
しかし、本人はギックリ腰なのだから、山道を歩くなど以ての外。
「女官さんたちが代わりに行くと言っているのですが、なんでも場所が入り組んでいるので女性の足では到着が真夜中になるそうなんです」
聖域は女神アテナを信仰するが、だからといって他の善良なる女神達を拒絶する姿勢はとってはいない。
それでも他の女神に何かを願うというのは、かなり準備を必要としていた。
ところが今回、突発的に女神アテナが宴に参加する事になったのだ。
裏方の人たちにとって、時間が足りないのは当然の話だった。
「……」
沙織たちが無事に戻れるよう、あらゆる手段を講じたいという老婦人や女官たちの気持ちは理解できる。
しかし、今自分は動くことは出来ない。
そこへ一人の青年が部屋に入ってきた。
「アンドロメダ。行きたまえ」
「シャカ!」
「縁なき衆生は度し難しという言葉を知っているかね」
何もかも知っているような口ぶりで、乙女座の黄金聖闘士は瞬を部屋から追い出したのだった。

そして西にあるヘスペリデスの園もまた黄金に染まりつつある時間、瞬はアンドロメダの神聖衣をまとい老婦人から託された籠を持って山道を素早く移動していた。
『何故、僕なのですか?』
瞬は老婦人に会ったとき、思わず尋ねてみた。
すると、老婦人はベッドの上で静かに古い時代の話を始めたのだった。

聖域の創設期というのは、非常に混乱の多い時代であった。
その中でも地上に生きるものたちにとって脅威の一つが怪物テュポーンとその眷属達。
彼らの凶暴性は巨人族に勝るとも劣らなかった。
むしろ本能に優れている分、強者の前には絶対に姿を見せない。
そのため、弱き者達の犠牲が絶えず村や町を壊されると言う事件も多発した。
そこで聖域は囮を使って、怪物達を倒す手段を用いる事にしたのである。

その作戦の実行者が、当時エチオピア王家の姫君であり聖闘士であったアンドロメダだったのだ。

同じように聖域に属する者だったケフェウスとカシオペアの援護により、アンドロメダ姫は次々と名も無きテュポーンの子らを葬り去った。
そのお陰で命を救われたのは一般の民のみならず、女神の神殿の関係者も数多い。
そして歴代のアンドロメダの聖闘士達も、良き者達であった。
その繋がりにより、善良なる女神達はアンドロメダの聖闘士に対して味方に付いてくれる可能性が他の者よりも高いのである。

瞬は老婦人から渡されたメモで道順を確認しながら、岩だらけの山に入っていく。
そして幾度か道を間違えながらも、目的地である祠に辿り着いたときには、太陽は西の大地に沈もうとしていた。