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続々・親友 6

半分廃墟のようになってしまった女神ヘカテの神殿に夜の気配が少しずつ忍び寄る。
聖域の女官達が神殿に設置した松明に火を灯した。
その灯は床に描かれた紋様を怪しく照らす。
薄暗くなって行く周辺の様子と暖かな炎の対比は、幻想的な光景を浮かび上がらせたのだった。

「綺麗ね」
春麗の言葉に美穂も頷く。
「とにかくこれからが長丁場だ。
二人とも好奇心に駆られて、この場から離れないよう気を付けてくれ」
同行したシオンの注意され、春麗と美穂は"はい"と答える。
そして彼女たちは先を歩く沙織・オルフェ・ソレントの方へ向かった。
「一応、敵襲を考慮して、何人か白銀聖闘士を配備しておきましょうか?」
ムウの言葉に、シオンは石造りの神殿を見上げる。
「白銀聖闘士たちは撤収させろ。女官達もだ。
余計な存在が介在するのは避けなくてはならない」
とはいえ、シオンもまたその判断に不安を感じた。

本来、シオンは直前まで、女神ヘカテの神殿に行く予定ではなかった。
だが、女神ヘカテの神殿は聖域から離れたところにある。
瞬間移動でなくては美穂を連れていくのは難しい。
沙織と春麗は聖闘士というものを知っているので、ムウと童虎が途中を省略して連れていっても特に問題はない。
だが、一般人である美穂に同じ事は出来ない。
その為、シオンが言葉巧みに彼女を誘導するという手順を踏んだのである。

「どうやって瞬間移動を決行したんじゃ?」
親友の問いにシオンは簡単に答えた。
「わざと遅刻して、近道という事で崖の上の丸太橋を使った。
美穂はあの丸太の上は渡れない。
私が抱きかかえたときに目を瞑って貰った」
あとは瞬間移動で目的地に移動したと言われ、童虎は納得した。
しかし、、何故女神とシオンは美穂に対して、これ程気を使うのだろうか。
それが童虎とムウにはよく分からなかった。

『私は残って確認をしたいことがある。
シュラはアイザックと氷河のサポートをしてくれ』

水瓶座の黄金聖闘士に言われたとき、シュラは何故自分なのかと思った。
しかし、女神アテナからの命令という理由で自分を納得させた。
それに女神ヘスティア絡みの問題では、デスマスクやアフロディーテのほうが裏の事情に精通しているし、実働部隊としてはシャカかアンドロメダの聖闘士が動くしかない。
断る理由は最初から無かった。
「とはいえ、この島で何をやればいいのだ?」
山羊座の黄金聖衣をまとったシュラはアイザックに尋ねる。
だが、相手はただ島の遠くを見ていた。
「夜までに時間がありません。
先に来ているはずの獅子座と蠍座から島の様子を聞こうと思います」
デスクィーン島は無人島ゆえに探すのは困難と思われたが、そこは強大な小宇宙を持つ者達である。
ある程度の気配を察するのは容易い。
そしてそれは別の存在にも言えることだった。

「何だ。お前達も来ていたのか」
いきなり肩を叩かれて、アイザックは振り返る。
「シーホース!」
「珍しい組み合わせだな」
しかし、アイザック達から見れば、何故バイアンが此処にいるのかという事の方が不思議である。
この時、島に強い風が吹く。
それは獣の咆哮のような音を響かせていた。