「あまり、不用意に少女達に近づかないで貰いたい」 社殿での騒ぎを聞き、シオンは眉を顰めながら苦言を呈した。 いきなり女官達に呼び出されて美穂の許へ駆けつけてみると、海将軍達が花嫁を連れ去ろうとしているという、何処の物語だと言いたくなるような騒ぎが発生していたのだ。 「こちらとしても女性たちを不安にさせるつもりはありませんが、正直言って参りました」 そして対応しているのは、全然関係ないイオだった。 他の海将軍達については他の用事を最優先に行う必要があったので、消去法として彼が叱られることになったのである。 元凶のジュリアンはというと、シオンとイオが話をしている部屋に備え付けられているベッドで静かに眠っていた。 「なんだか、とんでもない展開だったみたいですが、ミホさんは怒っていましたか?」 「ミホは何が何だか分からないと言っていた。怒っているのはあくまでペガサスだけだ。 ただ、女神アテナも心配されている。 聖闘士の事も海闘士の事も、ミホは何も知らない。 そして我々も、彼女がそれらを知らずに済めばそれに越したことはないと思っている」 シオンの言葉にイオは頷く。 彼にはその気持ちが何となく分かった。 |
「お前はいったい何をやっているんだ」 邪武は呆れたような眼差しで星矢を見る。 実際、星矢は美穂が連れ去られるのかと早合点して、海将軍達に掴みかかろうとしたのである。 ただ、相手も屈強の闘士たちなので、それはあっさりとかわされてしまうが、とにかくこの一件で、いったん星矢は落ち着くまで別室で監禁状態となった。 「何って、海将軍があれほど居たんだ。 美穂ちゃんが連れていかれると思わなかったのか」 「思うわけないだろ! 何の理由があって、美穂を連れ行くんだ」 邪武の返事は速攻だった。 しかし、星矢はまだ納得出来ないらしい。 「……美穂ちゃんは可愛いじゃないか」 「そんな理由なら、向こうは正々堂々と美穂に告白すれば済む話だろ。 煩い幼馴染みはいても、別に決まった彼氏が居るワケじゃないんだからな」 そう言いながら、何故か邪武の方が暗い表情になる。 「邪武。自分の発言にダメージを受けてないか?」 「煩い。放っておいてくれ」 そこへドアが静かに開いて、星華が部屋へ入ってきた。 「星矢。落ち着いた?」 「姉さん……」 「後で美穂ちゃんに謝りなさい。 美穂ちゃん、泣きそうになっていたわよ」 そんな星華の声色も、どこか怒っている。 「……わかった」 そんな姉の様子に、星矢は素直に頷く。 「謝りに行ってくる」 そう言って部屋を出ようとする彼を、邪武が引き止めた。 「お前は美穂が戻るまで、ここにいろという命令だ。 もし逆らうのなら、スニオン岬に直行となっているからな」 一瞬の沈黙の後、星矢は大きな声で叫ぶ。 「スニオン岬だと!」 彼は教皇の本気度を瞬時に理解した。 「それは怖い所なのですか?」 何も知らない星華の質問に、邪武は頑丈な牢屋だと答える。 そこの場所の過酷さは、聖闘士だけが知っていれば良いのである。 「星矢、大人しくしていなさい」 青ざめている姉の様子に、星矢は首を縦に動かすしかなかった。 |