「随分、賑やかだな……」 廊下にいる人物に言われて、カノンとソレントは驚く。 「ポセ……、ジュリアン様!」 慌てて言い直して、ソレントは部屋の中を見る。 ジュリアンという言葉に美穂が反応した。 「ジュリアンさん!」 シオンから後で呼ぶと言われていた青年が、向こうから会いに来てくれた。 美穂は彼の無事な姿を見て、涙が零れそうになった。 「無事で良かった……」 そんな彼女に、ジュリアンと呼ばれた青年が近付く。 ところが、青年はそのまま彼女を急に抱きしめたのである。 「ミホ……」 「えっ!」 美穂の耳元で青年は何かを囁くと、そのまま彼女にもたれかかった。 倒れそうになる彼女をカノンが支える。 「ジュリアン様!」 ソレントが慌ててジュリアンの腕を掴もうとした時、 「美穂ちゃんを何処へ連れていくつもりだ!」 と怒りの声が部屋と廊下に響き渡った。 部屋の入り口で、星矢が怒りの眼差しで海将軍達を見ていたのである。 |
暗闇に佇む少女。 それが白鳥座の聖闘士である氷河の恋人だと、ナターシャは直ぐに分かった。 近づこうとしたが、相手の姿は暗闇に溶け込んでしまう。 この時、何となく奇妙な感じがした。 これは夢なのだと分かっている反面、このまま目覚める事は出来ないような気がして落ち着かないのだ。 三羽の白い鳥が、真っ暗な空を飛ぶ。 奇妙な歌声。 優しい風。 突然、ナターシャは自分の背後を誰かが通ったような気がした。 最初はエリイという少女かと思った。 しかし、違うようにも感じられる。 穏やかな世界。 美しい暗闇。 ナターシャはそこに居るのが怖くなった。 彼女は兄であるアレクサーの姿を探す。 二つの光。 重複する人の影。 何もかもが曖昧で、確認をしようとすると消えてしまう。 誰かが服の袖を捕む。 |
怖くて声を出そうとした時、ナターシャは目を覚ましたのだった。 (あれはいったい何だっだの?) ナターシャは今朝方みた夢のを思い出して、溜息をついた。 今まで多くの夢を見てきた。 その中には気妙の一言に尽きるものも少なくはない。 だが、今回は夢という言葉で片づけられないものがあった。 そんな時に、クラーケンの海将軍が闘衣をまとわずにブルーグラードに来たのである。 夢の中で見かけた少女の様子が気になり、ナターシャはアイザックに会わせて欲しいとアレクサーに頼み込んだ。 しかし、クラーケンの海将軍に自分はちゃんと説明出来ただろうか。 そう考えると、胸の内に何か重いものを感じた。 幼い頃、父ピョートルに言われた言葉がナターシャの脳裏に蘇る。 はっきりしないものに無理矢理『言葉』という器を与えてはいけない。 その様なことをすれば、歪んだ部分、その器に収まりきれない部分は生命を攻撃し始める。 「まさか……」 本当にあれは、自分の見た夢という言葉で表現して良いのだろうか。 彼女は自分の考えに怖くなってしまった。 |