セイレーンの海将軍がカノンを引っ張りながらの登場。 沙織はいったい何事が起こったのかと思った。 しかし、ソレントの用件は、琴座の白銀聖闘士の奏でる音色を是非聞きたいというもの。 分かりやすいが納得しにくい理由なので、彼女は暫く考えこんでしまう。 「セイレーンはソレントと言う一個人として参加したいと言っている。 途中で女神達の不興を買ったら、こっちとしては海将軍の名折れなので何処かに捨ててくれ」 カノンの明らかに見捨てること前提の話に、ソレントは拳を握りしめる。 「……見捨てる気はありません。 むしろ、こちらも海将軍であるセイレーンに協力を仰げるか、ずっと悩んでいたところです。 何しろ女神の試練では竪琴とフルートの競演が出来たのに、今回は出来ないというのでは太古の女神達を軽んじていると言われても仕方ありません」 沙織はほっとしたような表情をした。 確かに、聖域はソレントに対して何一つ強制力は無い。 「それではセイレーン……いいえ、ソレント。 これから女官達のいるところで宴に参加するための準備をしてください。 それから美穂さんに会ったら、挨拶をお願いします」 「ミホさん?」 「彼女は貴方とジュリアンの身を案じて、日本からわざわざ来てくれました。 一応、貴方達は日本で誘拐事件に巻き込まれたということになっています」 そしてジュリアンが世話になった孤児院の少女だと聞いて、ソレントは納得をする。 「今回、彼女も私と一緒に宴に参加しますが、向こうは聖闘士のことも海闘士のことも知りませんから言葉には気を付けてください」 この時、驚きの声を出したのはカノンの方だった。 女官達は、あれやこれやと楽しそうに美穂と春麗の飾り付けをしていた。 少しずつ華美になってきているようで、美穂としては何か落ち着かない。 星華に助けを求めるような視線を向けたが、彼女も女官達の様子に口を挟めるわけがない。 春麗の方はというと、何か諦めに似た境地となっていた。 しかし、女官たちは足りないものがあるとか、確認したいことがあると言って、一人また一人と部屋から出ていってしまう。 そして美穂、星華、春麗の三人が部屋に残された時、扉が勢いよく開いた。 やって来たのはカノンだった。 「ミホ。本当に宴に出るつもりか」 「カノンさん……」 「あんなジジイの口車に乗せられる必要はない!」 洒落にならない暴言に、ソレントはカノンを部屋から引っぱり出したのだった。 |
女神ヘスティアの神殿で何かあれば、 男の聖闘士は生きて戻れないことを前提に問題を処理しなくてはならない。 その話に瞬は思考が混乱してしまう。 とにかく気持ちを落ち着かせたい。 彼は一人っきりになる為に海辺近くの小高い丘にいた。 (早くジュネさんを見付けないと……) いつの日か絶対に逢えるという悠長なことを言ってはいられない事態の発生。 今すぐに彼女を探しに行こうかと瞬は考えた。 だが、心はますます重くなる。 拒絶などされたらどんな対応をしたらいいのか。 しかし、 再び手を離すことは出来ない。 無理矢理にでも聖域に連れ戻すかないのだ。 脳裏に否定的な推測が思い浮かぶ。 それでも最大級の幸運を望む気持ちもあった。 『おぬしは何が望みなのだ。』 パンドラの言葉が胸に突き刺さる。 この時、瞬は自分の方へ来る人物を見付けた。 「イオ……」 その人物は普段着をまとっているスキュラの海将軍だった。 「やっぱりアンドロメダか。 すまないがジュリアン様かクラーケンを見かけなかったか?」 老婦人から二人は出掛けたと言われて、イオは彼らを探すことにしたのである。 「僕は、会ってはいないよ」 「そうか。邪魔をしてすまなかったな」 イオは素早くその場を立ち去る。 瞬はその後ろ姿を見送りながら、溜息をついたのだった。 |