瞬は大きく深呼吸をすると、気持ちを抑えながら反論をする。 「……僕は女神アテナより、ジュネさんに付いては一任を受けています。 はっきり言います。 冥闘士の方たちには関わって貰いたくはありません」 「何故だ。 聖域は女の聖闘士を迫害しているというではないか。 アンドロメダはカメレオン座を守れるのか」 「絶対に守る! たとえ聖域の人間が何かを言い出しても、ジュネさんには指一本触れさせはしない」 無駄に熱い発言をして、瞬は自分の顔が赤くなっていくのが分かった。 「と、とにかくジュネさんについては諦めてください」 「……」 「お願いします」 これ以上、パンドラにゴネられたら、瞬としてはやりようがない。 ところが彼女は笑みを浮かべたのである。 「同門の繋がりだけかと思っていたが、それだけではないみたいだな。 アンドロメダには美味しい菓子を作ってもらったし、今回は引こう」 「お菓子……?」 意味の分からない瞬が首を傾げていると、素早くラダマンティスが説明をする。 「ミューと二人で作っていたのだろう」 大量のメレンゲがお菓子になった。 そしてパンドラは自分が手を引くための理由にしてくれたのである。 瞬がこの事に気が付くのに時間は掛からなかった。 |
「――そういうわけで、素顔の判明しない女聖闘士との見合いは無くなったということだ」 あまりにも訳の分からない内容に、バレンタインは軽いめまいを感じた。 「随分詳しいな……」 「それはそうだ。 アイアコス様が色々と脚色をして、城にいた冥闘士たちに話して回ったからなぁ」 「脚色?」 「最初に聞いたバージョンも話そうか? 今の話はラダマンティス様の修正が入っている」 「いや、結構だ。 それでアイアコス様は何処へ行った?」 ロクでもない話をバラ撒きに行ったというのなら、絶対に止めなくてはならない。 するとシルフィードが苦笑しながら答えた。 「確認したいことがあると言うことでデスクィーン島へ行かれた。 あとで聖域が上陸許可証を寄越したら、保管して置いてくれと伝言された」 「あとで?」 「あとで」 このような話を聞くと、バレンタインは自分の上司を悩ませるのは敵ではなくて同胞なのではないかと考えずにはいられなかった。 その頃、パンドラの方はというと上機嫌だった。 (アンドロメダと話をしていると、弟に頼まれているような気になる) 姉弟子を想うアンドロメダの聖闘士を見ていると、自分の弟の恋愛相談を聞いているような気がして仕方がなかった。 (悪い気はしない) 肉体を持たずに生まれた弟が自分に時折見せた意識。 その中には、あのようなものもあったように思える。 それを思い出せただけでも、パンドラは心が温かくなった。 |