ハーピーのバレンタインは冥界での所用を終え、その報告に地上へ出る。 ハインシュタイン城では私服にならなければいけない為、最初は手間が掛かった。 だが、何度も着替えを繰り返すと、次第に慣れてくる。 (冥闘士になる前は、普通に見ていた世界だというのに……) 僅かな光しかない冥界と違って、ハインシュタインの森は命と光に溢れていた。 明らかに違う世界に自分の身を置くというのは、何度も繰り返していても違和感がある。 それは、バレンタインは自分が冥界に属する者だと言うことを雄弁に物語っていた。 直ぐさま彼は上司であるラダマンティスに冥界の様子などを報告する。 だが、相手は精神的に疲労しているように見えた。 「……」 しかし、、その理由を尋ねるわけにも行かず、彼は部屋を出た。 そして理由を知っていそうな仲間を素早く一人捕まえる。 バレンタインは何が起こったのかを強制的に尋ねた。 掴まったのはシルフィードだった。 「私の居ない間に、ラダマンティス様に何があったのだ?」 シルフィードの方はと言うと、暫く何かを考えた後、 「嵐が吹き荒れた」 と、返事をした。 「嵐?」 「……そうだ。あれはもうどうしようにもない」 「何があった」 「パンドラ様がアンドロメダの聖闘士と言い争いをしたんだ」 それは三巨頭と黄金聖闘士が何人居ようとも、止めることの難しい争いだった。 |
瞬とアルデバランは、ガルーダの冥闘士に引きづられるように再び城へと戻る。 しばらくして手紙を書き上げたパンドラが書斎から現れた。 しかし、瞬は手紙の受け取りを拒否したのである。 部屋に緊張が走った。 「アンドロメダ。そなたの心配も分からないわけではない。 だが、私自身がカメレオン座を気に入っているのだ。 冥闘士たちに関しては心配無用だ」 「別に冥闘士の人たちについて、どうこう言っているわけではありません」 「一部を除いて、皆良い男達だ。 きっとカメレオン座も気に入る」 「……」 二人の攻防戦を見ながら、アルデバランはアイアコスに尋ねる。 「ガルーダ殿。あの方は本気で言っておられるのか?」 「完全に本気だ」 だから冥闘士側では止めようが無いと、彼は言った。 そうなると瞬がここで頑張るしかない。 「もしカメレオン座が冥闘士の誰かと恋仲になったら、ちゃんと結婚もさせるし色々と面倒を見る。 何が不満なのだ」 彼女の言葉に、瞬の表情が凍り付く。 「何と言われようとも、嫌だ」 あまりにも動揺して、彼はそう答えるのが精一杯だった。 ところがパンドラの目つきが、いきなり厳しくなる。 「いくらアンドロメダでも、冥闘士達を愚弄することは許さぬ」 いきなりのヒートアップと話の飛びっぷりに、他の闘士達はどう対処すべきか迷ってしまう。 そんな周囲の動揺を無視して、彼女は言葉を続けた。 「おぬしは何が望みなのだ。 私はカメレオン座を大事にするといっておるだろう。 彼女の夫を三巨頭の誰かにするなら、納得するのか」 瞬は即答できなかった。 (ミーノスがいたら面白かったのに……) (ミーノスが居なくて良かった……が、パンドラ様は何を……) いきなり話題の中心に引っ張り出されて、アイアコスは楽しそうに笑い、ラダマンティスはかなりのショックを受けてしまう。 アルデバランもまた、何も言えずにいた。 |