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親友 6

社殿の一室では、童虎が女官達から渡される資料に目を通していた。
それと同時に表紙の色が変わってしまっている本を捲る。
(この本にも曖昧な事しか書かれていない……)
歴代の文官や聖闘士たちが体験した情報は、常に記録され書庫に保管されていた。
そしてそれらは厳重に管理されていた筈なのである。
ところが実際には書物の幾つかは紛失しており、その中には今回のように女神アテナが他の女神の神殿へ赴くときの付き添いの人間はどう行動するべきかという心構えについて書かれた本も含まれていたのだ。
こうなると童虎やシオンの記憶に頼らなくてはならないものも出てくる。
(春麗なら大丈夫だと思うが……)
そう思う反面、彼は不安な気持ちが拭えずにいた。
女神アテナが他の女神の許へ赴く。
傍目から見ればそれだけの話なのだが、その行動を支える裏方の仕事量は膨大だった。

太古の女神達が催す宴に参加すると言うのは、一見すると素晴らしい話ではある。
だが、すぐに女神アテナや付き添った人達が聖域に戻れるという保証はない。
過去の文献を読んでいると、神隠しにあったという人間が再び人々の前に現れた時には、かなりの月日が経っていたという嬉しくない記録が見つかる。
(どうも気にしすぎているせいか、目に付いて仕方がない)
ページを捲る手が疎かになりつつあった時、部屋に弟子の紫龍が入ってきた。
その手には数冊の本を抱えている。
「老師。言われた本を持ってきました」
机の上に本を乗せる紫龍の顔は、ほんの少しだけ赤くなっている。
「春麗の様子はどうじゃった?」
「えっ……」
「紫龍。 おぬしが部屋に入ってきた時、僅かながら香油の香りがした。
それでは例え気配を消しても、他の者にはバレる。
様子を見にいったんじゃろ」
ようやっと紫龍は自分の服から僅かながら甘い香りが漂っているのだと気がついた。
「春麗は……、その……、女官達が髪型まで変えたので、別人のように見えました」
「可愛らしかったか?」
童虎の突っ込んだ問いに、紫龍はより一層顔を赤くする。
「一瞬だけしか見ていませんが、似合っていました」
「一瞬?」
「直ぐに女官達に追い出されました」
失礼なことをしてしまったのではと言う弟子を見て、童虎は小さく笑った。
「まぁ、気にするな。
それより、今度は読み終えた本を書庫に戻して置いてくれ」
そう言って童虎は机の脇に積まれた本を指さす。
その時、デスマスクがノックもそこそこにドアを開けた。

「老師。紫龍。緊急事態だ」
ところが蟹座の黄金聖闘士はそれっきりドアを閉じて立ち去ってしまったので、童虎と紫龍が部屋を出る羽目となる。

黄金聖闘士に緊急事態と言わせる。

それは非常にやっかいな問題の発生を意味していた。