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親友 4

「何をやっているんだ」
第三者の声に二人は後ろを振り返る。
「シードラゴン!」
「何処で遊び呆けていたのですか!」
咄嗟に出たソレントの暴言に、カノンはやや不機嫌になった。
「こっちは聖域の要請で動いていた。
お前たちこそ、何故ここに居る」
するとソレントは、ジュリアンの身体に海皇の意識が無かった時の為に急いで聖域に来たと告げる。
しかし、アイザックは個人的事情というだけで、それ以上は何も言わない。
「それは重要な事なのか?」
カノンは腕を組んだ。
アイザックは海将軍の中では最年少だが、無茶なことをやるような人物ではない。
だが、仲間の問いに対し自らの行動について口を閉ざすというのも異例だった。
「我々に言えないことなのか」
「言えないというより、正確に説明が出来ない」
「寝ている間にとんでもない事態に巻き込まれたのか?」
筆頭将軍の言葉にアイザックは困惑してしまう。
冗談なのか、何かを知っているのか、相手の表情から読み取れないからだ。
そこへ今度は、海の方から別の人物の声が聞こえてきた。

「居た。居た」
スキュラの鱗衣をまとったイオが、手に鞄を持って海から瞬間移動で現れたのである。
「三人揃っていて、助かった」
状況の全然判っていない彼は、地上にいる仲間が一同に介していることを素直に喜んでいた。


(……何だ?)
海辺へ辿り着いた時、イオは何か奇妙な気配を感じた。
周囲を見回す。
しかし、原因となるような存在は見当たらない。
そして鱗衣の動きが何となく鈍い。
彼は自分の手や腕を見る。
鱗衣に意識を向けると、先程のような抵抗もなく身体は滑らかに動いた。
(気のせいか?)
彼は自分の鱗衣を酷使しすぎたかと思った。

「何かあったのか」
スキュラの海将軍まで聖域に来たとなると、さすがにカノンは海底神殿で何かがあったのかと心配になる。
ソレントやアイザックの表情も硬くなった。
「それはこっちの台詞だ。
セイレーンもクラーケンもいきなり居なくなるから、配下の海闘士たちがどうしたらいいのか迷っている。
一筆、書いてくれ」
鞄から数枚の書類とペンがアイザックとソレントに渡される。
「これはシードラゴンの分だ」
カノンに渡された書類の束は、結構な厚さがあった。
そこには管轄の海に関する情報や事務的な事柄が書かれている。
三名の海将軍は、聖域の海辺で報告書の確認をする羽目になった。

「それからクラーケンは誰にも言わずに出掛けたから、北氷洋のやつらが心配してゲッソリしていたぞ。
あまり配下の人間を不安にさせるな」
そう言ってイオは、薄いクリーム色の紙を一枚出す。
「外泊……申請書???」
アイザックは書類を受け取ったままイオの顔とそれを交互に見た。
「なんだこれは?」
カノンも覗き込む。
「何て言うか……、クラーケンがいきなり居なくなったから、何があったのかと騒ぎになったんだよ」
イオに言われて、アイザックは自分がいかに勝手な行動をしているのかを再確認して俯いた。
「それは……すまない」
アイザックは普段から、あまり無茶な行動を起こす人物ではなかった。
ということで、部下にも他の海将軍にも黙って行った今回の外出行動に、彼らは初めて慌てたのである。
「過保護すぎる……」
カノンはため息をついた。
「クラーケンは海将軍だ。子供が使いに出たのとはわけが違う」
するとイオは苦笑いをした。
「いや、それが心配する理由に問題があったんだ」
それは、アイザックにとってどう反応して良いのか分からない事情だった。

「海底神殿にいる奴らで、有り得そうな理由を考えたら凄いことになった」
そう前置きされて、イオは海闘士たちと海将軍たちが推測した"心配する理由"を告げる。
「一つ目は思いを寄せる女性と再会するために出掛けた説。
狡猾な女に引っ掛かったという意見もあったが、一番多かったのは、今回の一件で運命の出会いがあった説だ。
ただ、相手が聖闘士なのか、どこかの見目麗しい姫君なのか、知り合いの恋人なのか、偶然出会った女性なのか。
または親兄弟が闘士とか、女性の幼馴染みが闘士で結構面倒な事態に巻き込まれているとか,煩い兄がいるとか、殆ど言いたい放題だった。
次が再びデスクィーン島に行ったのではという説……」
「もう、いい……。心配をかけてすまなかった」
それ以上聞くのが怖くなって、クラーケンの海将軍は話を断ち切ったのだった。